卒業の歌、友達の歌 | ナノ
購買に一直線


 目の前には同じ制服を着た多くの人間が列を作って並んでいる。4時限目が始まる前に食券を買っていた翔流と響希は大人しく列の最後尾へと続いた。

「人が多いような気がする」

「そぉか?こんなもんだろ」

 毎日購買でパンを買う響希と「食い足りない」や「少ない」などの理由でピークが過ぎた頃に行く翔流とでは感覚が違ったらしい。翔流は他学年、とくに3年生の多さにびっくりしていた。

「赤バッチばっかだ」

 『赤バッチ』とはブレザーの襟元につけている「鈴可」という文字入りのバッチのことで、赤は3年生の色だ。他にも2年生は青、1年生は緑という風に学年別で色が違う。他にも上履きのラインや体操服の色も学年別で分けられているから人目でどの学年かがわかる仕組みになっているのだ。
 ぱっと見ても赤色のバッチや上履きが多く、入り口付近の売店や昼飯時限定の購買には1,2年生もいるようには思えた。
 食堂とは言ってもほとんど3年生のテリトリーのようなものらしい、3年生に知り合いがいる1、2年生はたまに見かけるがほとんどの下級生は大手を振ってこないようだ。もちろん3年生がイジメるわけでもないがやはり上の学年というだけで何か重圧を感じるのかもしれない。
 翔流はポケットに手を突っ込み「チャーハン」と「からあげ」の券があるか確認する。忘れたかもしれないという不安もあるが、知らない人間がいるということで過剰になりすぎているのかもしれない、と思った。そう考えると、自分が周りの全員を疑って誰も信用していないような感覚になり、うわ何てことを考えたんだ、という思いが沸き起こった。

「・・・響希ぃ、おれ、汚い人間だぁ」

「どこのクサイ漫画だソレ」

 わけがわからないという顔で響希は翔流を見た。(多分)友人として(一応)1年と少し経ったがこの男の脳内回路は未だに理解しきれない、ヒューズが飛んでいるのか、それともネジが数本足りないのか。

「お前は本当に理解に苦しむ脳を持ってやがるよ・・・」

「けなしてるのかお前?けなされてるのかおれ?」

「貴重な人種として褒めてるんだ喜べ」

 しみじみと呟く響希の表情は何とも言えない哀れみが混じっており、一見してけなしているようにしか思えない、しかし珍しい人種という言い方がすでにけなしている類ではなかろうか、いやいや、褒めてると本人が言っているのなら褒めているのかもしれないがううむ。とどのつまり、けなされているとしか受け取れないはずの言葉をどっちとも受け取れずに悩んでいるのだが翔流はそれに一切気づかない。

「どうしたんだ翔流」

「何青春の風がちょっとやってきただけ、ところでパンは買えたか?」

「ああ、無難な菓子パンばっかだけどな」

 将吾は持っている紙袋を持ち上げる。紙袋の数は3個、中に1,2個入っているとしても中々の量だ。

「つうか、ここまで来て学食じゃないのがお前らしいというか何というか」

「今日はパンの気分なんだ、先に席取っとくぞ」

 こともなげにそう言うと人の多い学食内を歩き中途半端な位置にある席に座った。紙袋を開けている様子を見ると待つ気はさらさらないようだ。学食で購買のパンを食す、見た目は悪くない頭の良さそうな学生。周りもちらちら伺っているのに本人は一向に気づいていないあたりはさすがだ。すこし呆れないこともない。

「響希」

「なんだよ」

「結局さっきのはバカにされてたのか?」

「・・・いつの話題だ」

 先ほどより大分前に進んだ列と同じくらいどうでもいいことを悩んでいたらしい。






「俺まともなのになぁ」

「類は友を呼ぶというだろ?」

「じゃあお前が呼んだんだ」

「記憶が正しければお前がコイツを連れてきたんだろうが」

「そういや試験発表の時おれ将吾を見かけた気がする」

「ほらお前だ」

「お互い様」


*******************************

補足:女子はブレザー、男子は学ランの襟元に小さいバッジをつけてました。赤、青、緑の3色で青の学年が卒業した次の年の1年は青色。ループ。
慣れないうちは上の学年だと勘違いしてびびってた。
あと一つのデカイ空間に売店があって、昼は購買でパン売ってて学食があった。券売機で券を買うのは大体4時限目の前休憩が通例。




- 8 -



卒業の歌、友達の歌


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -