卒業の歌、友達の歌 | ナノ
先輩後輩
4月の陽光は暖かく、空気が冷たいのを考えれば見事なバランスを保っていると考えられるかもしれない。その温度を喜ぶかのように新一年生ははしゃいでいる。同じくらい桜の花びらもはしゃぐように咲いている。
「見ろ、翔流。あの一年生たちの初々しい姿を」
響希は切れ長の目をふっ、と感慨深そうに細め、隣の友人に向かって同意を求めるかのように呟く。視線の先には新品の制服を着て同じく新品の教科書を持ち、教室移動している自分達の後輩にあたる者たち。方向から言って情報教室にでも向かっているのかもしれない。
「若々しい・・・っ若々しくて直視できない・・・っ!!」
そんな下級生たちの姿に翔流は目を覆った。何かに期待するような生き生きとした感情を隠しきれずに笑顔になる1年生たちの姿はまさに純白の天使や赤ん坊のように見えるのだろうか、眩しそうに背を向ける仕草をする。
「なんつーか、ほんと期待に満ちてるってかんじ」
「たしかに、嬉しくてたまらないっ!て、雰囲気だよなぁ」
「・・・お前ら何やってるんだ?」
うっとりと何かを見つめる二人を、うんざりとした目で将吾は見る。廊下を移動する一つ下の学年をまるで幼子でも見守るように見ている友人。実に気味が悪い。 しかも便所の目の前で眺めている。気味が悪いというより、胡散臭い。キモイ。
「キモイぞ」
「ってオイ!今純粋に思ったこと安直に口にしただろおぉ!!」
「理解できないか?気持ち悪いって意味だ」
やれやれと言わんばかりの表情で将吾は翔流を見る。
「おれどんだけ現代の波に乗り遅れてんのぉぉ!?」
「大丈夫だ翔流、今は昔流行ってたものが流行る時代なんだぜ?」
「何ソレ!?ていうか響希、なんでお前何も思わないの?!」
存外に矜持を傷つけられたらしい、半分涙目になりながら必死で否定(にも思えないが)する表情をキモイ、と響希と将吾は思う。それは女のする顔だ。男はキモイ。心底思う。響希はちらりと横のほうを通過する1年生に目を向けた。
「ねえ、あの人ちょっと可愛いね」
「ええ?男でしょ?」
「でも眼鏡の人も悪くないよぉ?」
「よく見てよ、超涙目なのに可愛いよ?すごい顔よくないと無理だって!」
「ん〜・・・女顔なだけじゃない?」
正論である。下級生にこんなことを言われる先輩。あまりにも笑え、いやいや。情けない。
「ひーびーきーく〜ん?おれのことをなんつう目で見てんだよ!!」
「あ、ごめん。そんな目で見てた?」
「認めたうえに謝るな!!」
「落ち着け翔流、面白ければ何でもいい」
「お前らなんて大嫌いだー!!!」
外面的にどう思われてるか気にするくせに、先輩として後輩にどう思われているか気にしながらの行動はしないんだろうなぁ。響希と将吾は目を一瞬だけ合わせて、面白そうに目の前の生物をからかい続けた。
遠くでベルのような音が聞こえた気がしたが、三人の耳には右から左へ通り抜けるように何も聞こえなかった。とクラスの友人に三人は話した。
「瀬川桑島本名、どんだけお前らは遅刻が好きなんだ?」
「本名くんが駄々をこねたんですぅ」
「おれ何もしてないし!!」
「俺らの言う事にいちいち反応するのが悪い」
「そうそう、面白すぎて」
「せんせぇ〜!」
「もういいからさっさと席に着け!」
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