卒業の歌、友達の歌 | ナノ
チョークの粉と黒板消し
響希は黒板消しを持ちながら途方に暮れていた。中学の時は黒板クリーナーなるものが教室のわきにしっかりと設置されていてそれはそれは白い粉を沢山つけた少し持ちにくいプラスチックと布で出来た消すための道具をきれいにしてくれたものだ。しかし高校に入ると黒板クリーナーなるものはあるものの今にも壊れそうで、電源を入れて上部に黒板消しを擦っても吸引力が壊れているのか、はたまた中身が詰まってしまっているのかまったくキレイにならない。
「じゃあいらないじゃんか」
教室に設置されている意味がない、むしろ場所を取っているだけで邪魔なだけだ。うーん、と唸りながら窓の外で叩くか、それとも一階まで降りて叩くか、逃避を試みるかで悩み始める。後ろではホウキを持っているとはいえ掃除しているとは言いがたい掃き方をしている将吾が小さくあくびをかみ殺していた。
「将吾、これは窓からやりゃいいのか?」
「ここが四階なのを忘れるなよ」
「下にいる奴らなんか気にしたら終わんないし・・・ぶぅっ」
へんっ、と鼻で笑い飛ばして容赦なく黒板消しと黒板消しを叩き合わせて白い粉を落とすと、いきなり響希めがけて吹き飛んできた。
「・・・」
「ぺっおぇっ・・・口の中入ったし・・・」
「あっははははっ!」
どう考えても唾と一緒に飲み込んではならない異物を口内に感じながら後ろを振り返ると、教室の扉に手をかけた翔流が目に涙を浮かべて大爆笑していた。自分の姿が見えない響希は翔流の笑う絶対的な理由はわからないが、確実に口に入った後の姿を見て笑っていたということは、どうやら自分の姿がだいぶ白いらしいことだけは理解できた。
「おい・・・」
「はははっひっ・・・くっぷぷ・・・・・ぶはっ!」
止めようとした笑いはおさまらず、空気がもれたような大きな声が漏れる。響希はそんな翔流のすぐそばまで早歩きで近づき、がっ、と思い切り頭を掴んだ。
「はがっ・・・ててててっ痛いイタイ!!!!」
「ずーいぶーんたーのしそーだねぇー?え?翔流クン?」
「いや、てててっ!そうじゃなくてさっ、その真っ白」
「お前も真っ白になれっ」
そう叫ぶと響希は翔流の頭を解放する。翔流はふっ、と軽くなった頭部を持ち上げて「ひっどいなぁ何すんだよぉ」と文句を言うつもりで口を開ける。
「ひっどいなゲフゲフゴフッ!」
顔を上げた瞬間に真っ白い煙が視界を防ぎ口の中に入った。
「ザマミロ」
ざらざらした口の中の唾液を飲み込まないようにしながら前を見ると、黒板消しと手のひらを降参よろしく上げている響希がいた。つまりやりやがった。
「ひっっっでぇ!マジで酷ぇよお前ぇぇ!!っゴフ!やめろって!」
「ぎゃははははは苦しめ泣き喚け!!」
必死逃げようとする翔流を響希は下品極まりない笑い声を上げながら追い詰める。
「やめっやめろっぎゃあ目に入ったぁぁ!?」
「あ、テメこら!・・・ちっ」
本気で目に入った翔流は教室を素早い動きで出ると急いで手洗い場に向かった。響希はとても残念そうに舌打ちをするとしっかり白い粉の取れた黒板消しを黒板に置く。
「お前も顔洗ってこい」
将吾はどうしようもない目でそう言った。言われてもっとも白い部分に気づいた響希は必死に目を洗う翔流の背後を走って男子便所に駆け込み、鏡を見た。そこには真っ白い顔の目つきの悪い男子が映っていた。
「ちょぉぉっもっと早く言えってバカヤロ!」
「それは悪いことしたな」
「響希ぃ!お前おれにも謝れよ!」
「うっせバカ取り込み中だちょっと向こう言っとけ!」
「はああ?!」
「・・・」
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補足:一年生は4階と3階、別校舎で二年生は1階、三年生は3階と2階。
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