卒業の歌、友達の歌 | ナノ
廊下



 翔流は走っていた。そりゃもう全速力で、風のように、その名のとおり、猛スピードで廊下を翔ける。周りからの視線が微妙に痛いがそれでも走り続ける。足を挫きそうになるがそれも気にしない。そのままに勢いで廊下を突き進み、階段を下り、家庭科室の前を通り教室の前へ着くと急ブレーキをかけて立ち止まり扉を開く。

「漢検受かったあああぁぁ!!!!」

 開いたと同時に叫ぶと何事という目をしていたクラスメートは徐々に言葉の意味を理解していったらしい、歓喜の言葉を叫びまくる。

「本名が漢検に受かったって!!」

「おお奇跡だスゲェ!!」

「おめでとー!!」

 クラスの男子や一部女子から投げかけられる賞賛の言葉を翔流は仁王立ちをしながら全身に受ける。ああ、なんて素晴らしいんだ。そう思いながらスターさながらにガッツポーズをし、この状況をかみ締めた。

「おめでとー翔流くぅん、5級だけどおめでとぉ」

「小学生並の漢字力おめでとう」

 かみ締めていた感動が砕けちった。ぐるん、と窓側に座る響希と将吾を睨みつけ翔流は叫ぶ。

「そういうこと言わんでくださーい!何お前ら?KYか??KYだな!!」

「違うし、AKYだし」

 響希はまるで嘲り笑うかのような、はたまた偉そうな態度でそう言ってくる。翔流はずんずん、と二人座る席へと近づき講義を始めた。

「俺受かったんだよ、漢検に受かったんだよ、奇跡の合格なんだよ、なのにAKYとか何事?ていうかAKYって何!?」

「あえて・空気・読まない、だ」

「そこは読んでぇ!!」

 ボケとは言い切れない将吾の言葉に翔流は切実に叫んだ。喜ばしいことがあったのになんだか今日は叫んでばかりで翔流は心悲しくなる。だが響希と将吾は本気で凹み始めた翔流を完全無視しているようで意識しながら、所謂シカトをしながら会話を続けていく。

「見ろよ、あの廊下の人だかり」

「暴風の終着点がどこでどんな気候状態で起こったか気になった者達の集まりってやつか」

「まったくもってその通り、ていうか暴風は去ったのに何故未だにいるんだあいつら」

「暴風が人語喋ってしかも叫び声を上げたら誰だって気になるっていう話だろ」

「なるほど」

「なるほどじゃないし!!」

 響希の納得を全否定するかのような叫びに教室にいたクラスメイトや廊下でちらちらと横目で見ていたり思いっきり覗き込んでいた学生は全員翔流を見た。

「俺は人間で天災じゃないし人間だから人語を話すし漢検は高校生なんだから受かります!」

 まさに「不思議なもの」を見るかのような視線を受けながら翔流は全身全霊の叫びで言い切る。しかし将吾はいたって冷静に顔色を一切変えずに対応を続ける姿勢を崩さない。

「俺はお前が天災という言葉を知ってて人語という単語を使えて高校生という自覚があったことに驚いてる」

「将吾のバカ!」

「よし、じゃあ人間の証として『ホモサピエンス』って言ってみろ」

「ほ、ほも・・・さ・・・?」

「ホモサピエンス、人間の学名」

「人間はみんな言えるんだけどなぁ」

 きひひ、と響希は不気味に笑う。その笑顔に翔流はこれ以上バカにされてなるものか、と心に刻んだ。

「言えるわいボケェ!」

「言ってみ」

「ホモさ・・・サピエ」

「どうした暴風」

「暴風言うな!俺はホモサピ・・・ンス」

「エが抜けた」

「・・・っるさぁいドアホォ!!」

 ガタガタ、という激しい音を立て椅子から立ち上がると翔流は一気に廊下に出て行く。その素早さはずばり「風」。その様子を見ながら将吾と響希はしみじみと「体育のときもっと速く走れるだろ」とまったく関係のない方向へツッコんだ。






「もう授業始まるのになんで帰ってこないんだアイツ」

「心の傷が深すぎたんだろ」



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