卒業の歌、友達の歌 | ナノ
昼の放送は聞こえない


「やっべこの玉子焼きマジうめぇ」

「ぎゃー!お前何食ってんだよ!!」

 翔流はさっ、と自分の食料を奪った泥棒の弁当に箸を伸ばしたが、泥棒は先を読んでいたような素早さで己の食料を翔流から遠ざけた。

「おれはこれから伸び盛りなんだぞ?これに希望をかけてるんだぞ!?」

 必死に訴える友人を目の前に、すでに伸びきりはじめている響希はその様子を鼻で笑う。

「むしろすでにデカイほうに栄養を回したほうがいいと思わないか?」

「思うかバカタレ!」

「そんなに食いたいなら俺のでも食っとけ」

 読んでいた本に栞を挟み、微妙にくだらなそうなものを見る目で二人を見つつそう言った。その言葉に翔流は一瞬目を光らせたが、すぐに思い直したような顔になる。

「お前最近、毎日毎日あんま食わねぇじゃん、自分で食べろって」

「夏バテしてるから食いたくないんだ、食べてくれ」

 冷ややかにそう言うと鞄からお茶を取り出し、それを少し飲んだ。顔色があまりよくない。7月に入ってからあまりものを食べている姿を見てないだけに心配になってくる。

「まあ、無理に食わせるわけにもいかないし、お前食べちゃえよ」

「うわ、お前友人なら心配しろよ!」

「心配してるからこそ本人の意見を尊重してるまで」

 ニヤリ、と笑いコロッケを頬張る。本当にこのままいただいていいのだろうか、いやしかしいくら成長期とはいえ友人の昼飯を食べるなんてそんな横取り的な・・・本人がいいって言ってるからいっか?でもこいつ今週に入ってマジで昼飯食ってないし!!

「トリップしなくていいから食ってくれ」

 ぐるぐると思考の渦に飲み込まれかけていた翔流に将吾は声をかけた。その一言を受け、翔流はゆっくりと鮭の入った彩り豊かな弁当へと手を伸ばした。

「はー、美味いっおばさん美味いよ・・・!!」

「俺にも漬物くれや」

「たーんと食え、心行くまで食え」

 苦笑しながら将吾は本を開く。欠食児でもないくせに食いまくる二人の姿はたまに子供っぽく見えて仕方がないのだ。微妙に爺くさいこと考えているのは自覚しているが、自分が大人びているのか、二人が子供っぽいのか、その辺は考えない。そこで今日は昼の放送が聞こえないことに気づいた。

「今日は放送がないな」

「あの『DJマイクがおおくりします!!』のやつ?」

「そういえば聞こえないな」

 まあ流れてもたいしたことないし、と区切りをつけて響希は将吾の弁当へと手を伸ばす。狙うはニンジンのグラッセだ。翔流は残った漬物へを口へ運びながら時計を見た。1時を5分ほど過ぎている、今日はもう放送はないのかもしれないと見た。

「相変わらず仲良いなぁ三人とも」

「中山・・・なんか臭い・・・」

「んな!」

 ひょっこりと響希の後ろに立ったクラスメート、中山由太は翔流に言われた一言にショックを隠しきれない様子で自分の腕をかぎ始めた。

「確かにエイトフォーをかけたのに!」

「でも僅かに!」

「犬かお前」

 視線を本から一切外さずに将吾は言い捨てる。たまに「コイツ、目がもう一つついているんじゃないか」と疑ってしまうほどにツッコミが的確なのはなぜだ、と疑ってしまう。

「どうしたバスケ少年、飯は?」

「食った、それよかお前ら放送で呼び出されてたけど」

「え?」

「はい?」

「なんて?」

 翔流と響希の間抜けな声に対し、将吾はハッキリと聞き返してくる。この辺に賢さが出てる気がして中山は笑った。

「4組の桑島、瀬川、本名は至急生徒指導室に来なさいって」

 空気が何となく凍った。中山はそれを敏感に感じ取り、そっとその場から離れた。






「お前らすぐに来いって言ったじゃん」

「いやスピーカーの電源が切れてて・・・」

「すみませんでした」

「で、何で呼んだんですか?」

「こないだのさ、学校取材した番組をビデオで録画したってお前ら3人言ってただろ?」

「あ、それおれです」

「お、そうか、本名、それ貸してくれ」

「・・・・」

「そ、それだけのために生徒指導室・・・」

「何で3人まとめて」

「どいつが録画したのかわかんなくてさ」



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