空想レター | ナノ
見上げれば青い空が一面に広がっていた。
通学の最中にのんびりと歩きながら爽やかな空気を楽しみつつ、今日の返事を考える。
「暇な人」との文通(と表現するのが正しいかは定かではないが)も気がつけば一ヶ月近く続いていた。
まさかこんなに続くとは思っていなかったが、今では日常であり楽しみの一つでもある。
小さく笑いながら住宅街の真ん中を抜けていく。家から氷帝学園までは徒歩で通っているが、決して家が近いからではない。
むしろ徒歩で片道四十分はかかる、距離で言えば三キロはあるだろう。親には再三自転車か電車通学を勧められたが、それでも徒歩にこだわるのは、通学路の景色を眺めながら歩くことが好きだから。季節ごとに移り変わる周囲の景色を見逃さないために、そして地味にダイエット効果を狙いつつ三年間徒歩で通しているのだ。
のんびりと歩きながら何気なく顔をあげて、ある家の屋根に映えるそれを見つけた。
ほら、見逃さなかった。
「ふふ」
つい声を漏らして笑ってしまった。
『昨日は夢で猫に眼鏡を食べられました。ちょっと怖かったです。』
「暇な人」の話題に内心吹き出す。眼鏡を食べる猫って、どんだけ雑食なんだという話だ。
頭の中で猫がバリバリと眼鏡を食す姿を思い浮かべて色んな意味で怖くなる。
口の中切って血みどろとか…いやそんな怖いこと実際にあるわけないのだけれど。
頭を振るとお気に入りのシャーペンを指で一回くるりと回す。
『想像してしまいました。怖かったです。』
正直に書いて、この話題が続いたら嫌だなと思う。
ならば違う話題を振らなければ。
『そういえば通学途中に見たこいのぼりが楽しそうに泳いでました』
なんと苦し紛れに書いてしまったのがありありと感じ取れるような文章だろうか。
けれど今日はどうしてもこの話をしたかったのだ。仕方がない。
そう納得して授業用のノートを開いた。
放課後になり、校門を出てすぐの場所で携帯を開いてメールを確認する。
母親からの買い物指令メールである。
「タマゴと大根と砂糖…」
口に出してから頭を捻る。果たして何を作るつもりなのか。
ぼんやりと考え込んでいると、視界の端に一人の男子が立っていた。
背が高くて、髪が長めの男子だ。後ろ姿しか見えないため顔はよくわからないが、氷帝の制服を着ているから氷帝の生徒なのだろう。中学生にしては大きいが。
その男子の後ろ姿を見ながらそう思っていたが、相手はこちらの視線に気付いていないらしく、斜め上を見上げながら何かを捜し続ける。
そしてすぐに諦めたように俯くと「おらんやん…」と呟いて、学校の敷地内に戻って行った。
何がいなかったんだろうか。
気になったが、買い物を思い出し早足でスーパーへの道を進んだ。
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