10000ヒット | ナノ
切原赤也は年相応に元気で多感でお洒落に気を使う。
例えばあの子アイドルが可愛いとか、最近発売した新しいリストバンドがいいとか。
音子はそんな切原の話を聞きながら「なんでこいつ、私なんか好きになったんだろう」と常々思う。
なぜなら浅井音子という人種が冷めててお洒落に興味がないからに外ならないのだからだ。
「姉ちゃん、今日は切原来んのん?」
「みたい」
来る時はいつもメールを送ってくるから。
俊也は「ふーん」と言って冷蔵庫からペットボトルを取り出した。
「最近切原来ないね」
「…こないだまで大会だったからじゃない?」
「姉ちゃん達倦怠期とかいてててっ!!」
「あんたはどこで覚えてくんだこのおバカ」
頭に一発入れてから鍋の中を掻き交ぜる。今日の晩御飯はビーフシチューだ。
少し前ならよく切原がやってきていたご飯時も、今では音子と俊也の二人だ。母は店があるためほとんど一緒に食べない。 だから一人減るだけで、随分食卓が寂しく思えた。
『しばらくは練習で行けねぇから』
そう言ったのは二週間以上前だ。
がんばれ、と返事した気がする。応援するのは当たり前だ。
しかし関東大会が終わったのにこないのはなぜか。全国大会への出場は決まったし、また練習しているのかもしれない。けれどメールも何もないのは確実におかしい。
「…どっちかというと、飽きられた…かな」
俊也は聞こえていないのかテレビを見始めた、それに安心しながら火を弱めた。
自分で言って、胸の中心がひやりとし、全身がひんやりして、足に力が入らない。
ああ、不安なんだ。
音子はぼんやりとそんなことを思った。