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 生徒会室の扉の前で悩む、果たして入るべきか否か。
 うっかり生徒会長がいたらぐちぐちと締め上げてくるのであろうことは容易に想像できる。

「んー…まあいいか」

 締め上げてきたら袋ごと鼻に突っ込んでやろう。
 そう判断して生徒会室の引き戸を引く。

「あれ?天野先輩?」

「…よしいない」

「誰がですか?」

「いやいやこっちの話」

 気にするなと言うと夜久と青空は揃って「はあ…」気のない返事をした。珍しいこともあるもんだ。
 しかし今はそんな後輩の変化を気にしている場合ではないのだ。

「お前ら日々がんばってるからご褒美をやる」

「いりませんよ」

「遠慮すんなし」

 箱から一袋を取り出して差し出すと夜久が困ったように笑った。

「一樹先輩怒ってましたよ?」

「会ったんだ」

「はい」

 ふーん、と呟いて巨大な箱を振る。ガサガサと音がした、たしかまだ五本は入っている気がする。
 三本はここで消費させるとして残り二本をどうするか。

「だらりんちょー!」

「ぐおっ」

 どしんっと音がして、その音に見合う程度には背中が痛いうえに重い気がする。

「天羽ぁタッパの違い考えてくれ」

「ぬははは捕獲成功なのだ!!」

「は?…あ」

 意味がわからずに首傾げると天羽専用のラボから見慣れた灰色頭が出てきた。

「よぉ天野」

「よぉ不知火、元気そうで何よ痛い痛いこめかみ痛ぇからっ」

 天羽に後ろから羽交い締めにされたまま不知火が片手でこめかみを締め付ける、これは世にいうアイアンクローかっ。

「やめろ痛いガチ痛いっ」

「ふははは俺の苦しみを味わえ!」

「辞めろ今すぐ生徒会長を辞任しろっ」

「それとは関係ないだろーが!」

「ぬーん!!だらりんちょ暴れるぁうわわわ!!」

 唯一自由な足で前方に蹴りをかましたり、天羽が「ぬ」を連発したり、不知火がデカイ声で文句をつらつらと言い続けたり、ひたすらぎゃあぎゃあと騒ぐ。

「やれやれ…本当に呆れた人達ですね」

 いつの間にやら横に立っていた青空が静かに言った。
それにぎょっとしたのは不知火と天羽で、同時に二人の動きが止まる。

キュッキキギキキィキイィ〜

「がああっ!」

「ぬぐぅわっ!」

 生徒会恒例、黒板キーキーの刑が執行された。
 不知火達はあまりの不快音に耐え切れずに床にうずくまる。が、俺はわりと平気なため立ったまま二人を見下ろす。

「あーあ」

「天野先輩、覚悟してください」

「は?ぁがっ」

バキバキッ…

 口に何か突っ込まれ、それを瞬時に察すると奥歯でかみ砕く。ミルクチョコレートの濃厚な味がした。そして同時に鉄のような…。

「…」

「どうですか?先輩」

「奥歯に…刺さりましたな…」

「気をつけて食べて下さい」

 ニコリと青空が爽やかに微笑みながら注意してきたが、そんなわかりきっていることを言われてもどうしろと?
 やるせない気持ちになっていると、夜久が倒れた二人に声をかけながら湯呑みを渡してくれた。

「先輩、これを」

「ありがたいマジで」

 何だか夜久が天使に見える。
 そして一口飲んで…ぐっと唇に力をいれる。

「先輩?」

 首を傾げる夜久の目には不思議そうな色しかない。
 いやここで口を開くのはマズイって吹き出しちまうって。ていうかこれ…お茶か?

「…先輩?」

 青空が肩を叩く。目が笑っていない。
 息を止めて覚悟を決めて、飲み込んだ。

「…前衛的な、味だなぁ」

 目から涙がこぼれそうだ。
 とんだ誕生日になってしまった。








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