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 保健室を覗き込むと頭を抱えるように唸る陽日先生を呆れた目で見る星月先生と水嶋先生がいた。

「お邪魔します」

「邪魔するなら帰れ」

「邪魔するという目的を達成しないかぎり帰る気はねぇっス」

「無茶苦茶言うね」

「天野ー!」

「なんですか」

 適当に会話していると横からデカイ声で呼ばれた。
 意味がわからずに陽日先生を見ると怒った顔をしながらグズグスと啜り泣きしていた。

「何ですかそのツラ」

「聞いてくれよぉぉ水嶋が俺を…俺をチビと言ったあげくノリが悪いんだ!」

「はあ…」

「俺は水嶋に教師と生徒のスキンシップの素晴らしさを知れと言っただけだぞ!?」

「先生ばっちぃんであんま近づかないでマジで」

 顔が青くなった。
 陽日先生はふらふらとよろめきながらソファに手をついて頭を抱える。そしてぶつぶつと「俺の周りはどうしてこう…」と言い始めた。
 何だか怪しげな言動にもしやと思い机の上を見た、ら、ゴロゴロと未成年が飲んだらいけないらしい飲料水の缶が…。

「ええぇぇ…べつにどうでもいいけど夕方とはいえ教師が学校の風紀乱してるし」

「言っておくけど、僕と琥太にぃは飲んでないよ」

「この人は?」

「直獅はできあがり済みだ」

「ですよね」

「天野青春してるかぁぁ?!」

「なんちゅー絡み酒」

 いきなり叫び出した陽日先生は本気でウザイ、今すぐ黙らせたいくらいウザイ。

「…陽日先生、俺は先生のおかげで素晴らしい学園生活を送っていると思ってます」

「ふぇ?」

「お?」

「え?」

「先生には感謝してもしたりません、文化祭や体育祭も盛り上がり普通なら嫌でたまらない授業も笑顔で受けられたのは全て!陽日先生のおかげです」

「君笑うことあるの…?」

「卒業までまだ数カ月ありますが、俺は今ここでお礼がしたいんです。是非受け取ってください」

 そう言い切るとひとつの袋を差し出す。陽日先生は感動のあまり…静かに泣き出した。

「天野、お前…お前そんなにっ」

「おいおい…」

「もちろんもらうぞ!ありがとうな!!」

「いいえ、さあ食べてください」

 ガシっとボッキーを掴んだ陽日先生は袋を開け、嬉しそうな表情のまま大口を開ける。
 星月先生と水嶋先生が同時に「あ」と言った瞬間。

バキィッボキゴリ…

 耳障りな音がお世辞にも広いとは言い難い保健室に響く。
 誰も動かないなか、陽日先生が無言で口を開く。

「…天野…?」

「酔い覚めました?じゃ」

 ポイッと机にボッキーを二つ投げて保健室を出る。
 ガラガラピシャン、という音と同時に中から「ぃだーーー!!」という叫び声がした。
 切実に思う、誰か来る前にビール缶隠しとけよ、と。




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