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 目の前に出されたのは若草色の鮮やかな色をした小さな袋。
 それを持っているのは妙に嬉しそうな唯。

「何をしている」

「ハッピーバースディートゥゥユーだけど」

 何を当たり前のことを言わんばかりの表情で袋を押し付けてくる唯に、真田は眉間に皺を寄せる。

「なんだよ嬉しくないってかぁ?」

「…場所を考えんかたわけがぁ!!」

 真田の渾身の怒声が、早朝のテニスコートに響いた。
 しかし怒鳴られた本人は反省の色を一切見せずに口を尖らす。どうやら真田の一喝に耐性がついてしまったらしい。

「だって早く渡したくてさー」

 ブーイングを飛ばす唯を無視して周囲を確認する。どうやら他の部員は来そうにない。それに安心した。

「ちょいちょいちょーい無視ですかぁ?シカトですかぁ?」

「少しは落ち着かんか」

「嫌だ」

 即答すると何が嬉しいのか唯は真田の背中を拳で叩く。

「暴力を振るうなど感心せんぞっ」

「愛情表現てやつよ!気にすんな!!」

 なんと迷惑な。
 朝からこんな迷惑を被るとは思っていなかった真田は頭を抱えそうになる。
 そこで視界が若草色に染まった。

「はいあげる。十六歳おめでとう」

「…礼を言う」

 ここで受け取らなければ他の部員が来るまでしつこく殴られそうな気がしてならない。直感的にそう悟り真田は袋を受け取る。
 小さな袋の中から微かに金属が擦れる音がしたが、果たして中身は何なのか。

「んじゃ練習気張ってねー」

 ひらりと手を振って唯はテニスコートから去った。
 残された真田は渡された袋のテープを紙から剥がし、手の平に中身を出す。
 チャリッ、という音とともに手の平に乗ったのは、ビーズで作られた黒い帽子と白い帽子のキーホルダー。しかもとても見たことのある形をしたもので、真田は逆に思う。
 いかにも手づくりのこれはどういう意味で贈られたのか。
 悩みかけるがすぐに深い意味はないのだろうと結論づけて、しかし大切にそれを握った。


 それから、テニスバッグにそのキーホルダーを付けていたら偶然唯に会った。
 とても嬉しそうに笑うその顔に真田も嬉しくなった。


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