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口の中が痛い。
ポッキーならぬボッキーの破片が口の中のいたるところに刺さったことが原因なのは火を見るより明らかだ。
ふざけよって奴らめ。
とにかくこれ以上被害を被るのはごめんとクラスを去り、ボッキーの箱を片手に校内を歩き回ることにした。
この苦しみを誰かに分け与えてやろうぞ。
「というわけで不知火食え」
「目的がわかりきった罠に誰が嵌まるか」
「白銀も食ってくれっから」
「ちょっとちょっと俺を巻き込むのはヤメてちょーだい」
生徒会の一角にある和室で寛ぐ二人にボッキーの袋を押し付けると本気で嫌がられる。
面倒臭そうな二人に俺が面倒臭くなってきた。
「だりぃ…お前ら全身で食えよ」
「かつてないほどの無茶振りだな」
「全身ってなーんか卑猥な感じだねぇ…くひひっ」
「お前な…っ」
「白銀は今発情期の真っ盛りだな」
何言ってんの人間てのはねぇ、とくだらないことをグダグダ話し始めた白銀を無視して、不知火にひたすら袋を押し付ける。
「だからいらないって。そもそもクラスの奴らがお前にくれたんだろ?大切に食べろよ」
「お前はあいつらの小ばかにした笑いを見てないからんなこと言えんだよ」
歯茎に刺さったボッキーに苦しむ俺を、愉快そうに笑い飛ばすクラスの奴らの腹立つ笑顔が頭を過ぎる。
「不知火、お前も苦しめ。そして俺が笑ってやる」
「どんな虐めだよ!!」
「ほら美味そうなミルクチョコレートがまぶして…」
「食う気ないくせに袋を開けんな!!」
「お前が食うからいいんだよ」
「よくぬぇぇぇぐあっ」
ボキッバキバキ…
不知火の動きが止まった。
隙を見て口にボッキーを突っ込んだら勢いでかみ砕いたらしい。
「あれま」
「どうだ?」
白銀と二人で覗きこんで見る、と微妙な涙目になっている生徒会長がそこにいた。
「前歯が…痛い…」
前歯で噛んだか。
哀れに似た同情を抱きつつ、そろりと不知火から離れ、靴を履く。ついでにと一本置いておき、畳から降りた。
「んじゃ配りに行ってくるわ」
そして全力で生徒会室から逃げた。
後ろから不知火の雄叫びが聞こえた気がしたが当然無視。
奴の相手をするより、片手に持った凶器を処分するほうが重要だ。