晴れた夜空を指差した | ナノ


 少し照れ気味というか、淡くピンクに染まった頬が可愛いといえば可愛い。そんな女子が目の前に立っている。

「こいつは夜久月子、俺の後輩だ」

 なぜか自慢げな不知火がその子を紹介した。後ろにはやたら睨んでくる銀髪と、不思議そうな顔をしている茶髪と、不機嫌そうな触覚がいる。多分ヤヒサツキコという子の友達なのだろう。

「お前なんかに後輩がいたんだ」

「失礼なことを言うな、大体それなら翼と颯斗はなんだって話になるぞ」

「天羽は子分、不知火は親分、青空は大親分だろ」

 正直なところを漏らせば、夜久という子やその友達であろう男子、さらに不知火まで固まってしまった。
 俺はというとよくあることなので気にせずに、不知火に奪われた紙パックのジュースを取り返えさせてもらった。





 昼休み、昼食を食べるため売店に向かうと見慣れた灰色の髪を見つけて立ち止まる。
 基本昼休みは昼寝をしたいからいつも売店でパンを買って食べるのだけれど、果たして奴がいるのに売店に行くべきか否か。うっかり話し掛けられたら長そうだから、食堂で食べるほうが早いかも。
 などと考えつつ足は売店の横にある自販機に向かっていた。とりあえずコーヒー牛乳を買って、さりげなく売店を覗いた。

「天野!」

「うわあ目が合っちゃったよめんどくせぇな」

「そういうことは思っても口にするな!!」

 案の定不知火は目敏く俺を見つけるとガシリと肩を掴んできた。

「大体お前、俺を無視する回数多くないか?ん?」

「違う違う、たまに視界が狭まるんだって。主に名前が「し」で始まって「い」で終わる人に対して」

「それまんま俺だろ!」

「出たよ被害妄想」

「お前が加害発言してくるからだっ」

「妄想は否定しないのな」

 会話しながら肩に置かれた手を払いのける。相変わらず絡み方が幼稚だな、と言おうとして不知火の後ろに見慣れない人物がいることに気付く。
 目が合うと戸惑ったようだけれど、丁寧にお辞儀をされたので大人しく頭を下げておいた。それに気付いた不知火は「ああ、そうだった」と呟いて、俺のジュースを奪った。

「あ、おい」

「会ったことなかったな、紹介する」

 不知火は笑ってその女子の肩を軽く叩く。
 そしてその子を紹介されたはいいものの特に反応のしようもない。あまり他学年に興味ないし、学園唯一の女子と言われても「へえ、そう。で?」といったふうにしか思えない。

「…お前な、後輩の前でそういう」

「気にすんな、ますますオヤジっぽくなる」

「…あの」

 不毛なる会話が再び始まろうとした瞬間、柔らかい声が控えめに割り込んでくる。見下ろせばヤヒサツキコなる女子が申し訳なさそうに目を合わせてくる。

「夜久月子です。天野先輩ですよね?」

「俺自己紹介したっけ?」

「一樹会長と翼君に聞いたんです。私も生徒会員なので」

「ああ、なるほどね」

 どんな話をしたやら、想像するのも面倒臭い。しかも話のネタがないから会話が途切れてしまった、ああ面倒だ。

「天野、これから昼か?」

 気まずい空気を読んだのであろう不知火が声をかけてきた。

「んーまあ」

「なら一緒にどうだ?」

「いや、眠いし、教室で食って昼寝するわ」

 不知火に付き合って食堂で食べようものならどれだけ時間がかかるか。強引に連れていかれる前にパンをレジのおばさんに渡して素早く会計を済ませる。

「んじゃ」

 そして片手を上げて挨拶するとその場をさっさと離れた。
 後ろから物凄く視線を感じたが、今は睡眠が優先である。
 …そういえばヤヒサってどう書くんだろう。
 まあいいか。



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