晴れた夜空を指差した | ナノ


 ぼんやりと宇宙食を食べながら、おむすびを一口食べる。そしてまた宇宙食をずるずるとすする。

「…美味いっスか、それ」

 七海の疑惑に満ちた目がすごく嫌そうな色でいっぱいだったから、飲みかけの宇宙食(ジェル状)を差し出してみた。

「飲んでみる?」

「…何味?」

「味?カレー。ポークかな」

「味まで…」

「さすが科学…一口いいですか?」

「ん」

 東月は興味深そうに宇宙食を受け取ると、躊躇いなく俺と同じ食べ方をした。なんという勇者。

「ど、どう?」

 夜久が緊張した面持ちで尋ねる。尋ねられた東月は真顔で夜久を見た。

「…不味い」

「そりゃそうだ」





 昼休憩の最中、不味い宇宙食をビニール袋に詰め込み安住の地を探していると、なぜか東月に拉致られた。

「宇宙食というものに興味があって」

 悪びれなく言われると文句を言う気も失せるというものである。
 大人しくレジャーシートの上に座るとすぐに夜久、七海、土萌がやってきて賑やかなランチタイムとなった。

「味は…たしかにポークカレーですね」

「マジかよ…」

「それってたしかジェル状でどんな食べ物の味も再現するっていう研究の一つだよね」

「羊君、詳しいね」

「前に論文を読んだんだ。でも日本の学校の教材で使われてるのは知らなかった」

「教材っていうか臨床実験。これあとで感想書かないといけないんだよなー」

 うげぇ、と露骨に嫌そうな顔をする七海を見たあと、横に置いたビニール袋の中身を確認する。
 入っているのは緑と赤と紫のパッケージの宇宙食。緑と赤はいいが、紫はなんだろう、茄子か?

「つか夜久、視線が気になる」

「あ…ごめんなさい!なんだか意外で」

「何が?」

 聞くと困ったような曖昧な笑顔が浮かぶ。すると七海が「わかるぜ」と真剣に頷いた。

「天野が宇宙科という事実。俺も聞いた時はビビったし」

 七海の言葉に同意するように土萌と東月が「たしかに」と呟いた。

「宇宙科ってハードって聞くけど、天野は体力なさそうだよね」

「だろ」

「お前らな、ちょっとは慎め。あと天野『先輩』だろ」

「いいよべつに、上下関係とかタルいし」

 常識を述べ、あまつ一応気を遣っているのであろうが、細かいことを気にしない俺からしてみれば別にどうでもいい事柄なのだ。
 それに気をよくしたのか七海が偉そうに胸を反らす。こいつなんと調子のいい奴。

「そういえば先輩、卒業後はアメリカに行くって本当ですか?」

 話を逸らしにかかった夜久がどえらい発言をかましてくれた。

「え、なにそれ」

「え…?一樹先輩と部長が言ってました…けど」

 意味深に言いつつ「かもね」話をする金久保と、ほぼ決定事項風に言い切る不知火の姿が脳裏を横切る。

「あ奴め許さでおくべきか」

「だ、だめでしたか?」

「不知火がな。多分金久保は許容範囲内」

「つうか、え?アメリカって…留学っスか?」

「いやなんかあっちの研究者のとこで働けないかって話。まだ決まってないし」

 担任が連絡を取ってくれたおかげで一応話を進んでいる…らしい。こっちも連絡したけど博士がいなくてまた後日になってしまったのはほんの二日前の話だ。
 そんなことを考えていると意外そうな、いや驚愕の表情を浮かべた土萌が「君がアメリカ…?」と呟く。
 何だろうと思っていると土萌と目が合ってしまった。

「言っとくけどまだ未定だぞー」

「…ねえ、博士はなんていう名前?」

「えーと、松垣だったかな?」

 あやふやな記憶を辿りつつ答えると土萌が早口で何かを言った。

「おいどうしたよ羊」

「何か問題でもあったのか?」

「むしろ問題だらけさ!マツガキフミタカといえば天文物理学と宇宙工学の権威だよ!」

「へー」

 知らなかった。そんないわゆる雲の上の人物のところに就職希望出したとは。むしろ連絡取れた担任がすごい。
 熱弁する土萌をぼんやりと見ながらそんなことを考える。

「…羊、お前…」

「なに?」

「ファン
か」

「哉太みたいにちょっと勉強できない奴には無関係な人だからわからないかもね」

 さらりと真顔で言いきられたに七海は「羊てめっ」と土萌に絡みはじめ、いやじゃれはじめた。

「でもすごいですね、アメリカなんて」

「少し意外ですけど、尊敬します」

「わーありがとう」

「…棒読みはちょっと」

「東月細かい、さすがオカン」

 思ったことを正直に言うと東月は「オカン言わないでください…」とわかりやすく凹んだ。
 それに気付いた七海が東月を弁護する。

「オカンっていうなお母さんと呼べ!!」

 弁護、ではなかった。むしろ東月さらに傷ついてるし。
 そして七海と夜久と土萌が三人でなんとか東月を慰める。

お母さん元気出してねえ

美味しいご飯食べようよ

俺たち手伝うから

ありがとうお前たち

 という感じで、つまりこれは親子の構図か。

「三人の子持ちかぁ」

 しみじみと呟けば七海にどつかれた。
 痛い。




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