短編 | ナノ
屋敷アパートの日常
「おはようございます」
お辞儀は角度を意識しつつ、けれど背筋と全体のバランスを忘れずに。
「本日の朝食はフレンチトーストに旬の野菜のサラダ、デザートは白桃のシャーベットでございます」
説明は素早く的確に。最低限の情報に絶対の説得力を。
「叶絵殿、申し訳ないが某は…」
「徳川様には日本食をご用意しております」
「叶絵、わたくしも」
「はい、真希子様。僭越ながら私がトマトベースのフルーツ野菜ジュースを作らせていただきました」
一人一人に合わせた朝食を作るのも大切なことだ。味覚を知り、相手の意図を読むことで最大限の喜びを感じてもらう。
「かなちゃんかなちゃん!」
「今日はなぁに?」
「搾りたてオレンジジュースでございます」
「わあい!やったねミナト!」
「うれしいねミナト!」
「う、うん、そうだね。双乃、双実」
「皆戸様、お手紙が届いておりました」
「あとで、お願いできますか?」
「かしこまりました」
食堂と化している大広間に入る扉の横に立ち、続々と食事に来る住人に対応する。これが朝1番の大仕事の一つで、住人の全員のその日の要望は全てここで聞くことになっている。そしてそれらをすべて記憶し実行する。慣れたものだと、自分にたまに感心する。
「やあおはよう、相変わらず美しいね」
「おはようございます亘理様」
「ああ、今日はディナーはいらないよ。食べてくる」
「かしこましりました」
「叶絵さんおっはー!」
「おはようございます、たま様」
「あたし今日部活で帰んの遅いけどご飯はいるからぁ!」
「はい、存じております」
「うっすメイドさん」
「おはようございます叶絵さん」
「おはようございます満様、勇様」
怒涛の勢いに呑まれそうになるがそこは耐える。学生の元気にはたまに疲れるが、悪いものではない。
他にまだ起きてきていない人がいないかを確認しながら、室内を見渡す。
他にも住人は5人ほどいるが、朝が早かったり、出掛けていていなかったり、朝に弱かったりというのは事前にわかっていたので確認は容易にできる。
そこでいつもはいる一人が足りないことに気付く。
「おはようございます、叶絵さん」
後ろからいきなり話しかけられたため驚いしまう。しかしここで声を上げるなど、失態はしない。振り向いて見上げるといつもの黒ふち眼鏡に柔和そうな笑顔があった。
「おはようございます、寺沢様」
「寝坊しちゃって…。もう皆食べてるみたいですね」
「はい」
たはは、と笑う彼に本日のメニューを言うと大広間に通すためにどうぞ、とお辞儀をする。
しかし動く様子はなく、むしろ見つめられているような視線ばかりが頭に刺さる。
「…寺沢様、どうかなさいましたか?」
「また朝ご飯食べてないでしょう?」
顔を上げて彼の顔を見ようとする。けれどその前に頭に手を置かれてしまい、上げることはできなかった。
「ダメだよ、ごはんはキチンと食べなさい」
そう言うと彼は広間へと入っていった。ポカンとして後ろ姿をじっと見つめてしまい、そんな私に気付いたのか、彼は振り向いて小さく笑った。
気まずい。そんな考えてを振り払うため、台所へ入りコーヒーメーカーにスイッチを入れた。
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でっかい屋敷風のアパートにいっぱい人が住んでて、そこで家政婦というかメイドみたいなことをしてる人の話。
最後は寺沢さんとの恋愛オチ。
キャラ↓
叶絵
17歳。アパートのメイドっていうか家政婦。かなり無表情で愛想はないけどだいたいのことはこなせますなスーパーウーマン。高校卒業資格とかそういうの持ってます。自分を女の子扱いする寺沢さんが苦手。自分のことは家事をこなす道具だと思っている。
寺沢由紀
23歳。アパートの住人。青年実業家でかなりのやり手。盆栽が趣味。叶絵さんにとっても優しいっていうか惚れてる。腹黒くはないけど純粋でもない自分に正直な人。視力がとっても悪い。
奥様
アパートの管理人ってかボス。朝に弱い年齢不詳の美人。借金のカタに売られそうになった叶絵を気まぐれで助けた。
徳川光康
大学生。日本の歴史について学んでるけど知識は偏り気味。あだ名は武士。
曽田真希子
美容系専門学校生。家は金持ちだけど美を探求するために家出したアクティブガール。
双乃・双実
謎の双子小学生。息はぴったりのくせになぜか服のセンスは真逆。見掛けは女の子、性別と中身は男の子。
皆戸守
気が小さいネガティブ中学生。双子に好かれてる。たまに爆弾発言をする勇者。
亘理
ナルシストな三十路前。仕事は不明だけどかなり稼いでるげ。女の子大好きなバカ。
たま(しろ)
常時テンションマックスの女子高生。たまかしろと呼べと催促するので本名不明。
野原満
兄。ストイックな男前で嫌だとは言えない性格。勉強は苦手。
野原勇
弟。寡黙な美形。人を騙してばっかりな眼鏡。運動が嫌い。
あと奥様の息子が俺様で、開かずの間には変な電波がいて、単身赴任中の中年社会人がいる。
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