短編 | ナノ
室内での物語


 彼はいつも部屋の中にいる。
 たしかに光りは入っているはずなのに、つねに薄暗い部屋の中で外を眺めている。

「ねえ、外に出ないの?」

 私がいくら聞いても淡く微笑むだけで、言葉はない。

「それよりも訓練のほうはどう?」

「うっ…」

 話をそらして現実を見てくれない。私はそのたびに彼のごまかしに乗る。
 長い彼の髪が揺れて、少しの光りが反射する。
 キラキラキラキラ。
 まるで水滴が光を映すような美しさに、思わず目を細めてしまう。
 けれど彼の整った顔に、いつもの微笑は浮かんではいない。その表情の真意を、私は知っている。

「何度も言うけど、私はあなたを守りたいの。だから剣を握ることに後悔なんてないよ」

 はじめて会ったのは、ずっと前。あれから彼の外見はまったく変わっていない。
 錦糸のような艶やかな銀髪も、ガラス玉のような緋色の目も、昔のまま。
 彼は何も変わっていない。変われない。

「私はあなたに、変化を知ってほしいの。だから近衛騎士になって、あなたのそばにずっといれるようにするんだ」

 私があなたに会って、そう思うようになったように、変わることを刻んでほしい。

「ふはっ」

 彼は私をじっと見ていたかと思うと、いきなり吹き出すような笑った。

「わ…らわないでよ!」

「ごめんごめん、だってすごく真面目な顔してたから…」

 なんだそれは。
私の真剣な顔は笑いを誘うほどのものなのか。
彼はいつもそうだ、私の気持ちをわざとらしいくらいの態度で流してしまう。

「ほら手をお出し」

 彼の繊細な、けれど骨張った手が誘うように差し出される。私は彼の手に誘われるまま手見せた。

「またこんなに荒れて、ちゃんと手入れをしなさい…女の子なんだから」

 言われて、手を素早く引っ込める。荒れた手を見せるのが恥ずかしいんじゃない、女の子扱いが恥ずかしいからだ。

「私もう行くね」

素っ気ない態度で扉に向かう。真っ赤になった顔を見られるのだけは、阻止するために足の動きの速度も普段の倍にして歩く。

「またおいで、ニコル」

「…うん、ありがと、エドワード」

 ちょっと振り向くと、彼は柔らかな笑みを浮かべて小さく手を振っていた。
 彼の見送りは、いつも淡泊だ。



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