短編 | ナノ
その重みに耐え切れなくなったら


「エリザベス、もう行くのですか?」

「はい、明日から任務がありますので」

「もう少しゆっくりしていけばよろしいのに・・・ですが、仕事ならば仕方ありませんね」

「申し訳ありません」

「謝るならナスターシャにしてください、あの子は貴女と一緒に過ごすことを楽しみにしていたのだから」

「はい」

「軍に戻らずこの家で大人しくしていれば、いくらでも一緒にいれるだろう」

「父上」

「あなた、この子は仕事をしているのですよ?」

「結婚をして子を産めばいい、それが仕事だ」

「父上、私は」

「令嬢ならそれらしくするんだ、名まで変えて軍で働くことに何の価値がある」

「・・・価値はあります」

「何だと?」

「あなた、ボルドー伯爵との会合の時間に遅れますわ」

「・・・怪我だけはするな、傷跡のある令嬢に求婚者など現れないからな」

「・・・」

「エリザベス・・・」

「お気になさらないでください、平気です」

「では、私もここで失礼しますね」

「はい」

「リズ!」

「姉上!走られてはお体に障ります」

「黙って行くなんて、それこそ身体に障ってしまうわ」

「はあ・・・」

「・・・あと先ほどの話、聞いてしまったの」

「父上とのですか?」

「そう、父上とのお話よ。本当に気にしなくていいからね、だって貴女は今まで跡継ぎとして育てられたのだもの、今更女性として他家へ嫁ぐなんて」

「女性としての立ち振る舞いも身に付けております」

「無理をしなくてもいい、と言っているのよ。家だけでなく仕事でも辛いことがあったら私に言ってちょうだい、相談くらい乗れるわ」

「・・・ありがとうございます、ですが仕事のことは特に大丈夫です」

「え?」

「上官が、とても良い人なので・・・姉上の心配するようなことは一切ありません」

「・・・もしかして、『イイ人』が見つかったの?」

「まさか、それに私より先に姉上に結婚していただけなければなりません」

「なぜ?」

「それこそ愚問では?」

「もう」


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