騎士のなりかた | ナノ
前編


 大量の人人人、あまりの人数に半歩引いた。
 だがその人数のボスであるウィリアムはもちろん慣れているので一歩前に出た。そしてわざとらしく咳払いをすると大きな手でケイトの頭を掴む。

「噂になってる初女騎士のケイトだ。だが女と思うな、こいつの口の悪さは天下一品だ」

「おい」

 真顔でツッコむが相手の目に冗談の色はない。どうやら本気で言い放ったらしい。どよどよというわかりやすい人のささやき声の一つ一つがケイトのことを噂しているらしいのがわかる。
 こんなに露骨に見世物にされたのは初めての経験だ。



ありえないからって暴力行為はよくないよね



 騎士というのは一貫して「体格が良く」て「背の高い」「男」ばかりだ。
 見た目の美醜にこだわりのないケイトには、集まった第二師団の騎士たちに対してその程度の感想しか浮かばなかった。しかし目の前にいるのは背は高いが「細い身体」にほぼ構造が「女」に近い顔立ち。に、貼り付けた笑顔が印象的な優男。

「やあ」

 クレナイは爽やかに片手をあげてみせた。

「…」

 それに対しケイトは、およそ女がするべきではない表情でクレナイを睨みつける。
 第二師団所属の騎士全員の前でさらし者にされたあと、ウィリアムに首根っこを掴まれて「これからお前と仕事する奴と見合いすんぞー」と言われた。そのまま騎士団本部内のちいさな部屋に連れてこられ、その部屋のど真ん中の机の上にクレナイは眠そうな顔で座っていた。

「…おいおっさん、なんでこいつがいる」

「俺ん部下で第一小隊所属の騎士だから」

「まじか!?」

 ぎょっとしてウィリアムを見上げる。筋骨隆々とした身体つきで、騎士というよりどこぞのワルの風体をしたウィリアムと、細くて女顔で底の見えない表情ばかりのクレナイに関わりがあるとはまったく思わなかった。正直、ムキムキの身体をボディビルダーよろしく見せ付けてくる騎士を「俺ん部下だ!」と紹介されたほうが納得がいくというものである。だが冷静に考えてウィリアムは師団長と言っていた。隊長、小隊長ではなく「師団」長。「ああ〜・・・」と呻いて俯くケイトの肩にクレナイが手を乗せる。

「ドンマイ」

「さわんな」

 冷たく払いのけ一歩下がる。下がってばかりの日だ、と思いながら触れられた部分を乱暴にはたく。もらったばかりの制服だが今すぐにでも洗濯したくなった。

「おーおー、露骨なやつ」

 はたいたばかりの肩に再び手が置かれる、だがそれはクレナイの手ではない。後ろを向くと栗色の髪を乱暴にかき混ぜたような髪型の男が立っていた。

「…誰だお前離せ汚い」

「おわー!女がスゲェ暴言!顔は結構いいセンいってんのになぁ」

 男はケイトの言葉にひるむ気配を一切見せない。むしろ面白そうにケイトをまじまじと見下ろした。

「おいおいミシェル、頼むよ手を出すなよ」

「大丈夫っすよ好みじゃないし、つーか随分と嫌われたなそこの色男」

「こっちのほうが面白くていいよ」

「何プレイだそりゃあ」

「手なずけプレイかなぁ」

「ぎゃはは!そりゃ面白れぇ!!」

「どこがだっ」

 ばしぃ!と鋭い音が部屋に響く。ケイトがミシェルと呼ばれた男の脳天を全力で叩いたのだ。しかし少しの間固まったミシェルはすぐに反応を示した。

「このチビ何すんだっ」

 自分より20センチは低いであろう女性の胸倉を掴むという暴挙にでるという行為に。しかしケイトも負けていない。無言でミシェルの腕を掴み、筋と筋の間に思いっきり指を食い込ませた。

「痛てててててっ!お前ありえねぇ!」

「そりゃあこっちの台詞だ!バカに野郎をつけるとバカ野郎と読む、わかるか?お前のことだいっぺん洗浄でもしろや!」

「はぁ!?もっぺん言ってみろミニマム腐れ女男!」

「不細工!」

「ブ女!」

「無神経!!」

「暴力小娘!!」

 初対面にしてすさまじい暴言の応酬を2人は繰り返す。その様子を見てウィリアムは窓を閉めながら大笑いをし、クレナイは楽しそうに呟く。

「君ほんと最高」

 決して褒め言葉ではない。


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