騎士のなりかた | ナノ
後編
「第二師団の仕事は市街警備とか、まあ凶悪なバカどもを黙らすのがメインだ」
「んでその凶悪なバカを牢屋にいれんのも仕事かオッサン」
「そりゃあ給料外の任務で、そういうのをするときは財布の中がないときだけだ」
「やる気ないうえに給料泥棒かよオッサン」
「口癖のような言葉がたびたび俺の繊細な心に突っかかるんだが小娘?」
こめかみをわざとらしくひくつかせながらウィリアムは後ろを歩くケイトを見た。
「たかだか小娘の戯言ひとつに過剰反応か?オッサン」
ふっ、と笑いながらずり落ちてきた服の袖を捲り上げる。どう考えても男性用のコートは平均以下の身長しかもたないケイトにはでかいので上に羽織ってはずり落ち、着てもずり落ちる困った代物だった。打開策として腰に布を巻きつけてあるものの、気休め以外の何ものにもなりはしないだろう。
「ちっ、おい女入るって決めたなら女物のコート見繕えよオッ」
「今まで女がこの敷地跨ぐなんて誰も考えなかったからな、あとオッサンじゃねぇ、まだ35だ」
「十分だろ」
おっさんじゃねぇ、おっさんってのはだなぁ・・・。とぶつくさ言いながらもウィリアムの足は止まらない。正式に騎士団入団が決まったため、訓練場に集まっているという第二師団団員たちと顔あわせをしなければならないらしい。
髪をかきむしりながらケイトは「やってらんねぇやってらんねぇ」と呟く。
何が嬉しくて税金泥棒集団に入らねばならないのか。そもそもほぼ強引に入団させられたことを世間い露見させればいいんじゃね?いやいや、世間一般では騎士団に入るのは名誉なことだった。じゃあ上だ、上に誘拐されて強迫されたことを・・・決めたの上だよコレ。
「…やってらんねぇ」
「考えてること口の出すとかありきたりなギャグ披露してくれるなよ、笑えない」
「笑えよバカ、一芸披露してやったんだから」
「はははは」
ウィリアムはケイトの言葉にわざとらしく笑って「ついたぞ」と言った。デカイ背中の向こうにはとても広い、拓けた広場のような場所が見える。
「・・・で、愛想でも振りまきゃいいのか?」
「いらねぇ〜その気遣い」
「だろよ、おっさんの部下だしな」
「そういうこと」と言ってウィリアムは訓練場へと足を進めた。ケイトも後ろからついて行く、ただし逃げ出すことを諦めたわけではない、絶対にすぐに退団してやる。
廊下の天井に配置されたアーチ状の飾りに誓う。なんでそんなもの誓わなくてはならないのか。理由は至極簡単なことで、目につくようなものがそれしかないからだ。
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