騎士のなりかた | ナノ
前編


「騎士団にようこそ広告塔、私は第一師団師団長ロラン・フロストだ」

「にこやかに差し出された手を無視すると後ろから「わはははっ」という笑い声がした。
 最悪だ。



犯罪を取り締まる仕事をしてる奴ほど信用ならん


 騎士団入団の宣言を一方的に聞かされてから、ケイトは必死に裏通りを逃げ回った。言うなればねずみが広い住処をあちこちに移動するようなもの。絶対に見つかりはしない、そうタカをくくっていた。しかしどういった情報網を使ったのかケイトのねぐらはあっさり見つかり、体格の良い男たちによってあっさり騎士団本部へと連行された。
 ここまでくれば立派な誘拐である。
 そして現在、前には入団宣告をした男、ロランが楽しそうな笑顔で立派な机についており、後ろには色黒でありえないくらいガタイのいい男が立っている。

「………」

「傍若無人結構、むしろそのくらい図太いほうが長持ちしてくれそうだ」

「帰る」

「まあ落ち着けよ、茶でも一杯シバいてけ」

 扉のほうへ行こうと後ろを向くが色黒の男が体格に似合わない素早さで進路の邪魔をする。

「どけオッサン」

 ギロリと睨み威嚇するが、相手は大笑いをして「こりゃあいい!」と言った。ケイトは「ウザイ」と呟くがそれに気づいているのかいないのか、男は満足そうに細い少女の肩を叩く。

「決定!これ以上の人材はいない!」

「おい」

「あと俺はおっさんじゃなくてウィリアム・カロッサ、第二師団の師団長でまだ35だかんな」

「さっそく自己紹介かカロッサ、では第二師団配属にしよう」

「俺んとこに有名人おいていいのかよ?」

「…おい」

「問題ないだろ、むしろ合ってる」

「あー、たしかにこんだけ気骨がありゃあな」

「人の話を聞け!」

 出せる最大級の声音を持って噛み付く勢いで叫ぶと、ようやく2人はケイトを見た。

「いいかよく聞け!あたしは騎士団なんかに入るためにちゃんばらしたんじゃない!なのになんだお前ら勝手ばっかり言いやがって!!」

「まあカタイこと言うなよ」

 あっさり言い返され、ケイトは肩で息をしながらすぐ横にいたウィリアムに掴みかかる。前後に揺さぶりながら「ふーざーけーんーなーよー!」と叫んだ。

「そもそもこっちは女性が欲しかっただけだ、君の意思などどうでもいいに決まっているだろう」

 ケイトは絶句を通り越してただ呆れる。国を守る騎士がまさかここまで開けっ広げに人権を無視するとは、驚愕のいたりにもほどがあった。動きを止め唖然とした表情を浮かべるケイトにロランは笑いながらどこからともなく騎士特有のコートを取り出す。

「国の風潮は今や男女平等になりつつあるが古い習慣はそう消えないものだ、君にはそれを変える象徴になってもらう」

「お前は国が男も女も関係ないと認めた、実質的証拠ってわけだ」

 ウィリアムはケイトの肩をまるで慰めるように叩いた。

「ま、なんたって俺んところ所属だからな、あきはしないぞ」

「…誰も聞いてないっつーの」

「だろよ、これからよろしくな」

 がははは、と笑いながらウィリアムはロランからコートを受け取りケイトの押し付ける。コートを叩きつけて部屋から出て行くほどの気力は残されていなかった。


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