騎士のなりかた | ナノ
前編


 はじめはひやかしだった。
 身分の卑しい奴でも実力さえあれば力でのし上がれることを頭より身体で理解させるだけ。
 なのに…なんだこの状況は。

「ようこそ、騎士団へ」



騎士のなり方1:想定外のことも想定しとけ



 母親が死んでからお約束のように孤児になった。そしてお約束のように裏路地をうろついてメシを漁って泥水を飲んで生活してきた。
 ただ飢え死にするようなことはなかったけど。裏路地は餓死と疫病が蔓延していると勘違いされやすいが、実際には決まった秩序が存在し、その秩序の頂点に立つ奴らは自分の権力を示すための「道具」を殺すことはしない。飢え死にしそうな「道具」に最低限の手を差し伸べ、最高の賞賛を手に入れる。
 家も身分も持たないから、すべてに絶望している人間なんていやしない。その場所にあるルールを守るのが人間だ。裏路地のルールであり秩序は「救った人間を敬うこと」。付き従う意味ではないが、権力者同士の抗争が起こったらその指示に従わなければならない。
 腐ったルール。
 だから自分は誰の助けも受けなかった。幸いなことに勘の良さと身軽さに自信があったからどんな危険からも逃げられた。犯罪込みで。
 そんなかんじで12年。ある日表通りを歩いていたらビラがたくさん壁に貼られていた。

『闘技大会開催!年齢性別不問、腕に覚えのある人、参加募集中。賞品は500万、および騎士団への入団。』

 それを読む若い男たちの話は一貫して「楽しそう」「度胸試し」ばかり。まれに騎士団への夢を語る同じ歳くらいの少年もいたが、どこまで本気だかわかったもんじゃない。

「・・・娯楽かっつーの」

 下手をすれば死んでしまうとまで言われている大会なのに、呆れたものだ。表通りの奴らは裏通りの奴らよりも命を軽視する傾向でもあるだろうか。いや、イイ勝負だろうけど。


 次の日、受付に行ってどんな奴らが参加するのかを見た。
 名誉ある闘技大会に参加する者は全員が勇者と同等らしく、誰かが参加表明をしたとたん拍手喝さいが起こった。
 勇者も安っぽくなったものだ。参加するのはガタイのいい男から、剣どころか包丁も握れそうにない男まで様々だが女は一人もいない。女は家で慎ましやかに家事をこなすのが美徳と言われるからだ、アホらしいことに。

「おっ、追い出された」

 みずほらしい格好の男が受付から追い返されたのが見えた。裏通りの奴だろう、きっと家族のためにとかそういう考えに違いない。そのまま見続けると、どう見ても裏通りからはいずり出てきたような格好の奴らは全員追い返され、そうじゃない奴らは参加OKということになっているのがわかった。
 ある意味で人種差別甚だしい。
 かなりムカついた。

「なぁ兄ちゃん、武器防具は支給だって?」

「あ?ああ、そうらしいな」

 同じように参加する奴を見ていた男に確認をする。
 騎士団が剣、斧、杖、普通の武器と呼ばれるものは何でも貸し出すという表記はたしかにあった。あそこまで大きな大会だ、手入れのされていないボロボロの武器はないだろう。
 なるほど、おもしろい。
 小さく笑いながら受付へ向かって歩く。後ろから誰かの声が聞こえる。
 前へ出るたびに参加する気満々の奴も、悩む奴もみんなが見ては道を空ける。受付についた頃には周りはやかましいまでにざわついていた。

「なんだ、お前。遊びなら帰れ」 

「酔狂でこんな視線浴びに前に出るわけがないっつーの」

「…参加する気か?」

「ナメんな」

 攻めるように言うと男は渋々ペンにインクをしみこませ始める。

「名前は?」

「ケイト」

「年齢は?」

「17」

「性別は?」

「見りゃわかんだろ、女」

「出身は?」

「裏通り」

 真実を素直に言っただけで、周りからは怒号のような驚き声が響いた。
 うるさい。



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