騎士のなりかた | ナノ
後編


「思うに、君はもっと人生を楽しんだほうがいいんじゃないかな」

「・・・は?」

「そんなカリカリして、損ばっかりするよ?」

 唐突に話し始めたクレナイを見上げて、ケイトは「誰のせいだ」と軽く肘鉄をお見舞いした。巡回も終わり、回った方向とは逆の道をたどりながら本部へと向かう。こうも単純な順路ばかりでは、絶対にいつか利用されるだろう、とケイトは考えているが、誰にも言ったことはない。そこまでする義理はない、と言ったところか。とは言えバカばかりが集まっているわけではない集団だ、いつかは誰か気付くだろう。
 そんな道の見慣れた石畳が延々と続く路地を、赤っぽい石のみを選んでその上を歩きながら本部へ帰る。昨日は黒い石だったが、行動に意味はない。そしてクレナイはそんなケイトの斜め後ろを歩きながら、のんびりとどうでも良いネタばかりを振ってくる。これもいつものことなので大分慣れた。
 路地を出てると正面には騎士団本部を囲う、そこそこ頑丈そうな塀が見える。

「やっと終わった・・・」

 助かった。そう思った。慣れたのは慣れたが、やっぱり自由人すぎるクレナイの話にはたまについて行けないのだ。

「残念」

 対して、クレナイは本当に残念そうな声で言う。意見の相違が見られるにもほどがあった。

「おーいナイスコンビ」

 ズダンズダンズダンと響くような足音をさせながらウィリアムはクレナイとケイトに近寄ってきた。小走りなのに、しっかり地を踏みしめるような走り方にも、足音にも慣れた。

「コンビじゃねぇ」

「なんだなんだクレナイどんだけ嫌われてんだ」

「僕の一方通行の思いなんですよ」

「はっはっは違ぇねぇ!」

 普通に話しているつもりでも異常にデカイ声にも、慣れてしまった。

「と、まあ冗談は置いといてだ。お前らこれからちょっくら登城してこい」

 ぱっと切り替えたウィリアムの態度と言葉にケイトは「は?」と呟く。クレナイもいつもの笑みを引っ込め真顔で「えぇ?」と言った。二人のその様子にウィリアムはボリボリと頭を掻く。朝からまったく櫛を通していないだろう黒髪がさらにぼさぼさになった。

「いや何、俺もよく知らねぇんだけどよ、やっぱケイトを拝んどきたいらしいぜ?」

「さすが、身も蓋もない」

「まあなあ」

「ああ、そーゆうことか」

 歯切れの悪い言葉にケイトは一人納得した。その言葉にウィリアムとクレナイは逆に疑問を抱く。

「なんだよ、そーゆうことって」

「女の騎士が珍しいっていうのと、私の髪と目だろ」

 そう言って自身の髪を人房つまんだ。ケイトの髪は金色だ。それ自体はよくあるし、珍しいものではない。しかしケイトは髪の色が金色で、目の色も金色、これが珍しいのだ。世間では茶色に青色という組み合わせや、一見わかりにくいものの赤茶に焦げ茶などほとんどの人は髪と目の色が違う。
 ケイトの髪は金色、すこしオレンジの強い蜂蜜色とも言える色で、目の色も長い前髪ですこし見えにくいが、同じ蜂蜜色なのだ。

「ま、希少レベルは高いだろな」

「冷静な判断だね」

「バカな奴らによく商売道具にされかけてな…」

 自分で言っててかなしくなる。何度も捕まりそうになったが何度も逃げ切った経験なんて、気持ちいいものではない。そもそもなんで髪と目の色ごときで売られなきゃならないのだ。
 そんなケイトの心情を理解したのか、二人は「ああ、そうかい」と呟いた。
 至極どうでもよさそうな響きだった。


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