道の街 | ナノ
第三章


 昼の時間が過ぎるとロイは母親と店番を交代し、出店が多くでる大通りへと出かけた。
 道の街と例えられるせいか閑散とした小道ばかりの街を思い浮かべる人が多いらしいが、実際の「道の街」は活気があり、そして小道よりも大通りが目立つ造りになっている。そもそも街門から街へ入るとすぐ目の前にたくさんの店が並ぶ大通りがあるのだから勘違いしている人は驚くだろう。
 そのメインストリートとも言える大通りでロイはフランクフルトを買い、のん気に祭りを見て回っていた。

「おーいロイ!」

 後ろから大きな声で呼ばれ振り向くと近所の肉屋の息子であり幼馴染のジョンがいた。何事かと思いロイはその場で足を止める。ジョンは軽快な足取りでロイの方へと近づき、大きな声で話し始める。

「珍しいなぁお前がこの祭りで堂々と出歩くなんて!」

「何それ、俺は珍獣の類?」

「だってお前毎年あんま出てこねぇじゃん!」

 片手に持った焼き菓子を頬張りながらジョンは「わはは」と笑う。
 その笑いに余計なお世話だ、と思いながらロイは手に持ったフランクフルトを齧った。美味い。

「今年くらいは行ってこいって母さんに言われたんだ」

「追い出されたか」

 「お前ん家の母ちゃん強引だもんなー」と言いながら出店を覗きこみ再び前を向く。ジョンは協調性も社交性も高く、大騒ぎが好きなので毎年参加しているはずだ。図体がでかくゴツイわりに気さくで面白いことを言うのも良いらしく毎年女子の誰かに「祝いの踊り」の相手を頼まれていた。
 もちろん恋愛感情がない場合がほとんどだが。

「ジョン、あのさぁ」

「んー?」

 気のない返事を返す。何となく聞くのが躊躇われた。

「あー・・・」

「何だよはっきり言えよ気持ち悪い」

「・・・踊りの相手決めた?」

 意を決したかのような言い方にジョンはきょとん、として途端に呆れたような、驚いたような顔になる。その表情に自分の勘が正しいことを悟った。

「何?お前まさかまだいないの?」

「悪いか?」

 開き直った態度に今度は「いや悪くはないけど」と返してくる。この声には呆れしか含まれていない。

「お前なら結構な相手いたんじゃね?」

「いた」

「・・・なんでその中から適当に選ばなかったんだよ!」

「女苦手なんだよ!しかたないだろ!!」

 頭上で叫ばれロイは同じくらい大きな声で応戦する。この物言いといい驚きといい、おそらくジョンにはもう相手がいるのだろう。

「ほんっともったいない、お前もったいない!」

「うっせ」

 自分の勘は正しく、あまつさえコレでもかというほど驚かれてしまいロイは拗ねる。何がもったいないのかも驚かれるのかもわからない。むしろ自分の性格を考えるとこのくらいありえるというか、当然だろう。
 そもそも人付き合いが苦手なのに相手を誘うなんて無理だ。誘われてノリで「OK!」というのはもっと無理だ。基本的に無愛想で不器用な自分の性格が、このときほど恨めしいと思ったことはない。
 ジョンはそんなロイを見てがしがし、と頭を掻く。ぼー、と考えながらロイは自分より頭一つ分ほどでかいジョンを見上げていた。
 髪が短く立ったような髪型なのでいくら掻いてもその全貌に変形した様子は見られない。

「ロイ、一つ言っとくけど」

「んだよ」

「魔女なんかを誘うなよ」

 いきなり言われた言葉にギョッとし思わずまじまじとジョンを見つめてしまう。その目には一切の嫌味がなく、真剣に考えているということだけがわかった。だがその目の真剣さに苛立ちが募る。

「・・・どいつもこいつも何であいつを・・・」

 自分にしか聞き取れない程度の声音で呟くとジョンは不振そうな顔をして首を傾げる。

「何だよ」

「何でも・・・安心しろって、あんな奴はありえない」

「・・・ほんとかよ、マジでわかってるか?」

「ってるってのっ!じゃあな」

 きっぱりと言うとロイは手を振りジョンと別れる。
 そのままわき道へと向かいするりと消えるように入っていった。



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