道の街 | ナノ
第二章


「二点で100バトーになります」

 少年は愛想笑いをしながら愛想のない声音でそう言うと商品を茶色い紙袋へと詰める。買い手である17,8の少女はニコニコと財布から硬貨を2枚だし少年へと手渡した。
 硬貨を受け取ると少年は素早く確認をし紙袋を少女へと渡す、と同時に「ありがとうございました」と言った。完全に営業用の台詞で胡散臭い笑顔を浮かべている少年に少女は耐え切れず噴出す。

「ねえロイさん、その笑顔は張り付いているのですか?」

 ぽやっとした雰囲気と同じくらい穏やかな物言いで少女は言った。ロイと呼ばれた少年は一瞬で笑顔を崩しぶすっとした不愉快そうな顔つきになる。

「貼り付けてるんだよ、ていうかこちらへいらしても問題ないのですかアンジェラさま?」

 わざとらしく様付けをしてそう呼ぶと少女は困ったように微笑んだ。

「今日は調子が良いのでつい」

「・・・またお忍びか」

「だってお父様に言ったら絶対に行かせてくれないもの」

 心配してくれるのは嬉しいのよ?と、呟くと少し俯きながらスカートについた埃を払った。アンジェラはこの街に数年前から住む貴族、ヴェルド男爵の一人娘でいつもは大きな屋敷で大人しくしている。身体が弱いのと、父親の過保護が理由だが本人はおしとやかな物腰とは正反対に好奇心旺盛で街に興味を抱いている。だから祭りや何か騒ぎがあったらすぐに街へと繰り出す、ある意味『お転婆』お嬢様だった。
 そんな好奇心の塊はニコニコと笑いながらロイの不機嫌な視線を受け止めた。

「私のことはどうでも良いのです、ところでどうしてそんなに不機嫌なのですか?」

「どうして?そんなの俺が15歳だからだよ」

 そういうとロイは先ほどの硬貨を箱の中へと投げ入れ店内の窓から外の様子を眺めた。大きな通りの端のほうにあるこの店からでも街の騒ぎはよくわかる。
 その場には普段ないはずのお菓子を売る屋台、花飾りをつけた少女、いつもより身なりを整えている青年や少年、大きな声で祝いの歌を歌う大人、そして行きかう人々。
 今日は年に一回の「歳越祭り」だった。「歳越」と言っても「年を越す」ための祭りではなく子供が「歳を迎える」のを祝う祭りで、その年に15歳になる少年少女の今後の繁栄を願い、そしてこの年まで無事に成長したことへの感謝のための祭りだった。
 この街の子供の数は結構多くロイにも同じ年の友達がたくさんいる、おそらく外で気前よく料理をふるい歌を歌っているのはそんな子達の親だろう。ちなみにその中にロイの両親はいない、参加してないという意味でいない。

「おじ様もおば様も喜んでくれているのでしょう?」

「喜んでるけど『おじ様』は現在散歩中、『おば様』は中で帳簿をつけてるよ」

 元々二人とも周りに馴染まず蚊帳の外でそれを眺めるようなタイプなのだ、一応毎年御馳走は出るがそれだけだから子供としても呆れるしかない。
 だが問題はそこではないのだ。もちろんアンジェラは知っているらしく微笑みながら指摘をしてくる。

「ご両親のことではなく『祝いの踊り』について困っているのでしょう?」

 はっきり言われる。それに対し大げさに溜息をつくとアンジェラはくすくすと笑った。どうせいつも笑っているような人なのだから気にはしないがこういう気分の時に笑われるとどうも癪に障る。
 「祝いの踊り」とは夜に広場で大きな火をおこし、それを中心にその年15歳の少年少女が踊る一種の儀式だ。毎年毎年行われている恒例行事なのでそれはロイも知っているし、この街の子供は参加するということが常識といて捉えられているのも理解している。しかし問題は相手だった。この「祝いの踊り」、実は男女で踊るもので参加する15歳の子供は相手を自力で探さなくてはいけない。
 とはいっても相手は別に同性でも家族でも構わないのだから色気も何もない。けれど夢見る少女や少年はそうでもないらしく意中の相手を誘うおうと必死らしい。

「最近毎日来るんだけど、誘い」

「ロイさん交友関係広いですから」

 ぐったり項垂れるとアンジェラは事も無げにそう言った。慰める気はないらしい。
 別に交友関係が広いわけではない、ただ興味関心の薄い両親の元で育ったら同じくらい物事への関心が薄くなり好きな子を苛めるということをしなかった、というか人を苛めるとかバカにするとかそういうことをしなかった。
 同じくらいの年の男子はどうやら好きな子を苛めたりするらしいがロイにはそれがない、誰にでも平等に接する、その態度がいいらしい。

「人は見た目ではない、ということですね!」

「え、何それ、慰めてんの?」

 暗に顔は大したことはないと言われたも同然である。ちなみにロイの顔立ちは母親似なのでどちらかというと女顔で身長も高くない、近所のおばさんにお願い!と頭を下げでも「かわいらしい」で片付けられる外見であり、ある意味コンプレックスである。
 この女、と思いながら切ない目線で見つめてもアンジェラはにこにこと笑うだけ、天然お転婆お嬢様には通用しないか。
 と、アンジェラが急にひらめいたかのような明るい顔をした。嫌な予感がロイを襲った。

「『メアリー』さんを誘ってはどうでしょう!」

「脚下」

「ええ?」

「論外、ない、絶対ない、ありえない」

 否定の言葉のみを並べる自分の形相はすさまじいものだろう、あのアンジェラがびっくりしたような顔をしているのだから相当のものだ。

「どうしてですか?仲が良いのでしょう?」

 アンジェラの驚きはそこではなかったらしい。盲点を突かれてむせるロイをアンジェラは面白そうに眺めている。このお嬢様は本当に突拍子もない。

「あのさ、別に仲良いとかそんなんじゃないよ」

 何とか落ち着くと必死の弁明を試みてみる。しかし「ふふ」と微笑みながらアンジェラは笑う。

「でもよく彼女の話をしているじゃないですか」

 逆効果だったらしく微笑ましそうな顔で言われてしまった。その後誤解を解こうとするもアンジェラには通じず、彼女が去るまで押し問答が続いた。



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