道の街 | ナノ
第一章
道の街ノア。
共和国ツケンサとローク帝国の境にあるたくさんの路地や小道があり、はじめて訪れた者は迷うと言われている大きくはないが小さくもない街だ。そのわき道の多さはまるで迷路のようで、まるで設計したときにわざと迷路となるように作られていると言っても過言ではないくらいに綿密な造りをしている。
だがこの街を作ったのは誰か、誰がこんな風な町並みにしたのかは一切わかっておらず、だが誰もそれを疑問に思うことはない。
そもそも住人にとっては幼い頃から暮らしていたので慣れているし、旅行に来た者たちにとっても探検しがいのあるいい街と言えたので気にしないのも当然と言えば当然だろう。
そんな「道の街」と呼ばれるノアには昔から不思議な噂がある。
それは小さい子供に言い聞かすお話のような他愛も無い噂話で、それでも脈々と受け継がれてきた一種の都市伝説の類のものだった。
「悩みがある人は『迷い道』に閉じ込められてしまう」
どう考えても迷路のようなこの街ではそういう話が出来上がってもおかしくない、という程度話だがそれと同時に「『迷い道』は悩みを解消してくれる」という噂もあった。
悩みがありどうしても『迷い道』へと行きたい、という旅人も少なくはなく、まれに「どうしたら『迷い道』に行けるのか」と住人に尋ねる者もいた。
だがそう聞かれた住人は必ず同じことしか答えない。
「迷いがある者は夢の中で雨が降る、聖堂から歩け、古きを祭るわき道を行け、神が宿る方へと向かい、音が消え、月が現る頃黒い影がその場を満たす」
これもいつから伝わっているものかはハッキリしないが住人たちはそれしか言わず、それ以上は語らないという。
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