道の街 | ナノ
第二章


『軍制国家トロイついに敗れる』

 新聞に大きく書かれた記事に目を通しながらロイは欠伸をもらした。
 さっき鐘がなったばかりなので今は12時過ぎくらいだろうか、それでも人通りはあまり多くはない。
 そりゃそうだろうなぁ、と思いながら新聞を閉じて決して明るいとは言えない店内を見回した。
 いかにも古い造りの外壁はレンガ建て、中の壁はレンガだが床は木造の一軒屋。アットホームと言えばそれなりの雰囲気を持つ空気に様々なにおいが混じっている。
 ロイの家は代々続く雑貨屋だ。元々はひいひいおじいさんが始めたらしく、様々な物を集めるのが趣味だったから他の街で目ざとく見つけたものを安く買い取り、手ごろな値段で売った、というのが経緯と言えば経緯か。
 今の店主はロイの父親だが、この父も気まぐれで散歩なんぞをしては日がな一日を過ごすという困った人であり、母はよくほかの街へ出かけては売り物を集めているのでかなりの確率で家にいない。だからか自然と店番は息子であるロイが務めるようになった。
 椅子に腰掛け足をブラブラさせながらロイは客を待つ。普段なら少女や若い女性、暇を潰しに友人やお隣のおばあさんがやってくるのだが今日は朝から誰一人としてこない。むしろ街は賑やかさを失い、まるで火が消えたような惨状である。だから本当に暇で暇でたまらないのだ。本当は読みたい本があるのだが取りに行くのも面倒だし、としかめっ面を隠そうともせずに再び新聞の一面に目を通す。
 そこにカランカラン、とまるでロイの暇を見越したように扉が開いた。

「ようロイ」

「あれ?ダックスじゃん、珍しいね」

 にこやかに中に入ってくる青年、ダックスは靴屋の息子だ。二十歳という若さだが腕は良く、近所のよしみでたまに父が安く磨いてもらっている。ロイにとっては兄のように心が許せる存在だ。
 ダックスはゆっくりと歩きながらロイの前まで来る。昔から背が高いのでいつか巨木になるんじゃなかろうか、とロイは小さな頃は思っていた。

「さすがに暇ってか?」

「そっちこそ、この時間にここに来るってことは暇なんでしょ?」

 「まあな」と言って苦い顔をする。

「あの噂と軍人さんのせいでこっちは商売上がったりだ」

「こっちだってそうだよ、いつもなら結構な人が来るってのに」

「本当に王子様がいるんなら、なんでこんな街に来たんだか」

 まったくだ、と思いロイは新聞に再び目を通す。

 軍制国家トロイとは国王が軍の大元帥、政府の統帥を勤めて国の全てを決める完全王政国家である。軍事力だけでは他国の水準をはるかに抜き、初めて銃と大砲を戦争に持ち込んだ国として歴史にその名を載せている。だがこの新聞にはそのトロイが敗れた、と書いてある。
 詳しいことは不明だが数ヶ月前に戦争が始まり、数週間前にこの辺でもかなりの歴史と国土を持つ共和国ツケンサに負けたという記事が堂々を載せてあった。
 さらに最後のほうには「トロイの王子、シモン・レイ・トロイが行方不明であり現在もツケンサ軍が捜索をしている。」と書いてある。これが今回この街で起きている現象の原因だった。

「この街にいるのが本当なら、この王子様も北から南へ頑張ってきたもんだ」

 ダックスは店内に置いてある商品を物色しながら呟いた。
 そもそもの始まりは王子をこの近辺で見かけた、という噂が始まりだったのだ。それを耳ざとく聞きつけた軍人が駆けつけた結果、剣やら銃やらを持つおじさんを恐れた街の住人は家へこもってしまった。

「軍人っていうのはどうしてあんな堂々と銃とか持ち歩くんだろうかね」

「さあ、でもこっちは迷惑極まりないって話」

「さっすがロイ、はっきり言ってくれて助かる」

 にやり、とダックスは面白そうな笑いを浮かべる。

「それ軍人に聞かれたら銃の的にされたり」

「勘弁っ!そんなのお呼ばれしても丁重に断る!」

 大げさに「嫌だ!」という態度を取るとダックスは「だろうなぁ」と呟いてくるりと背を向けた。気分転換は終了したらしい。

「ま、気をつけろよ、じゃあな」

「ああ、うん」

 再びカランカラン、という音がして扉が閉まった。



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