道の街 | ナノ
第十五章
「はあああぁぁ・・・」
ロイは重々しいものを吐き出すようにそれは大きな溜息を吐いた。
トニーの問題も解決し、あとは歳越祭である今日を終えるだけ。しかしそれが問題だった。あの後店へ戻ると母親が不思議そうな顔をして「踊りの相手でも探していたの?」と聞いてきた。
そう「祝いの踊り」だ。
強制参加ではない、いわゆる自由参加ではあるものの暗黙の了解として参加しないとあとで文句を散々言われるという面倒くさいものこの上ないという踊り。
相手もいないのに、どう踊れと?
踊りようがない、むしろ不可能である。母親に言われた瞬間思い出したようにロイは外に飛び出て、しかし行くあてもないので本日二回目の道を通り、メアリーの家の庭に来た。
時間はすでに夜になっていると言っても過言ではない。おそらく広場では自分と同じ歳の少年少女が集まっているだろう。
自分がいないのは不自然だろうか、探し回っていたらどうしようかなどと考えながら、結局広場に向かうなどという思考はない。すでにボイコット決定気味の思考はある意味から回りも同然だった。
花壇に腰掛じっと地面を見つめながら、再び重い溜息を吐いた。
「とっしよりくさ〜、本当に15歳?」
「・・・お前さ、14歳にしては絡みかたが幼稚なんだけど」
精一杯の睨みを利かせて目の前にやってきたメアリーを見る。相変わらず何が楽しいのかニヤニヤ笑いながら腰に手をあてて顔を近づけてきた。
「15歳で子供みたいに隠れてるロイ君に言われたくないな?」
凄まじいのまでの罵倒であり、仕返しである。勇気を出して言い返したというのにさらに言い返されるとは何事か。
「言いたいことがあるならどうぞ、はっきりきっぱきくっきりと言葉にしてよ」
「・・・トニーは?」
紛らわすために聞いてみると「ああ、何だそんなこと」と言って小さく伸びをする。あえての騙しに乗ってくれるらしい。
「仲直りしたみたいだよ、ま、私たちのことは忘れてるケド」
「そういう仕組みなんだろ?」
「まーねー」
これまで数人の街の住人の悩みを解決してきたが、誰一人として記憶にはない。どうやら夢の中の出来事として処理されるらしい。覚えているこちらとしては寂しいことこの上ないが、覚えられていても厄介なので何も言えない。
それでも仲直りしたという話を聞いただけで少し嬉しくなった。
覚えてもらえなくても、やはり悩みがなくなり喜んでもらえるのはこちらの気分も良いものがある。
「本日二度目のニヤニヤ〜、何何?自己陶酔ってやつ?」
「もうお前ほんとにうるさいっ」
手で面白おかしそうに笑うメアリーを追い払う。
そこに広場のほうからメロディが流れてきた。耳を澄ませるとスローテンポで軽快なリズムのなのがわかる。
祝いの踊りが始まったのだ。
今頃広場では同じ歳の子達や飛び入りで参加した大人たちが楽しそうに踊っているんだろう。そう思うと行きたいと思うがいかんせん、相手もいないのに何をしろと。
目線を広場から逸らすとメアリーが小さく笑っているのが目に見えた。
寂しさと羨ましさの混じった笑顔。しかしそれは一瞬で消え、すぐに普段の飄々とした笑顔に戻る。
「ねー祝いの踊りってどんな感じ?」
言われて「毎年やってるだろ」と言おうとしたが彼女にそれを言うのはいけないのを知っていた。だから掻き問われたことにたいして答えることだけを考える。
「最初にまず握手をしておじぎをする、で手を繋ぐんだ」
「両手?」
「輪を作るんだよ」
メアリーは「ふーん」と言うと頭の中で色々を考えているらしい、楽しそうな顔で目をつむっていた。きっと広場での情景を思い描いているのだろう、うっとりとする表情の中に、やはり羨ましさを隠しきれない雰囲気を出していた。
それを確認したロイは立ち上がり、目をつむるメアリーの前に立った。そして静かに手を差し出す。少しの間メアリーは気づかなかったがすぐに目を開けると、きょとん、とした顔でロイの手と顔を交互に見る。
「何これ?」
「握手求めてんですけど」
ぶっきらぼうに言いのける。ロイの顔は暗闇にまぎれわかりにくいが、赤かった。
メアリーは呆然とした様子でその手を見ると、面白おかしそうに笑いながらその手を握り返した。そして互いに両手を繋いで、輪を作る。
「まず右足を下げるんだ」
「こう?」
ぎこちない仕草で右足を半歩分さげるとキラキラとした目で見上げてくる。どうやら次を催促しているらしい。
ロイは恥ずかしいと思いながら同時に楽しい気持ちになり、能弁に踊り方を教える。
ある意味、単調な動作の繰り返しだから簡単に説明をするだけであとは音楽に合わせて踊るだけ。
2人は暗闇の中、誰もいない緑溢れる庭で両手を繋ぎながら音楽が止むまで踊り続けた。
〜ハッピー・ギブ・タウンend〜
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