道の街 | ナノ
第十二章


 ぼとり、と大きな音がしてロイは後ろを向いた。
 そこには案の定、何が起こったのかわからない顔をしたトニーが地面にしりもちをついた形で座っていた。

「・・・メーアーリー」

「そこまで私は関与できないよー」

 丸っきり嘘であるのがバレバレである。もうちょっと優しく対応してやれよ、と思いながらトニーの方を見るとやっぱり呆然とした顔つきで地面を見詰めていた。
 あまりにも動かず一点を見続けているため、精神的におかしくなってしまったのではないかと疑ってしまったがそもそもここにいるトニー自体が精神なのだからそのあたりは問題ないのかもしれない、となんとなく納得する。
 そしてその考えのとおりトニーはおかしくなってなどいなくて、その証拠にゆるゆると顔を上げると泣きそうな声で小さく言葉を発した。

「・・・あれ」

「きみの過去、悪いけど覗かせてもらったから」

「の、のぞ・・・」

 声を詰まらせて金魚が餌を求めるように口をパクパクし始める。しかし次の瞬間には立ち上がり顔を真っ赤にして怒り始めた。

「あ・・・っ悪趣味なことすんなよ!大体覗くとかなんだよ!気持ち悪ぃことすんなっ俺はあんなの思い出したくもなかったのに!!」

「ごめん、そしてその気持ちものすっごくわかる」

「はあ!?覗いたあとにそういう事言うのか?マジで信じらんねぇ!」

「うるっさいなぁ」

 メアリーは溜息を吐いたあとに凄まじく低い声でそう唸った。トニーはきっ、とメアリーを睨むと文句を言い足りないと言わんばかりに口を開く。

「何まだ文句言うの?言っとくけどここを望んだのは君なんだからね、わかってる?君がここに来てすべての迷いを解決したいって言ったんだよ?」

 人形のように冷たい目でメアリーはトニーを見た。

「なのにすべてを知らせないで解決しろっての?バッカじゃない?カミサマとかじゃないんだからさぁ、そんな奇跡ありえないの」

 ロイは嫌いな目をするメアリーを見ないようにトニーを見つめる。トニーは苦手なメアリーが前に出てきたからか、それとも彼女の言う事に一理あるのかわからないが悔しそうに唇を噛み俯いていた。
 ゆっくりとしたような妙な緊張感が漂う時間が静かにすぎる。

「・・・解決してくれんのか?」

「君次第だけどね」

 搾り出した、縋るような声にメアリーはあいまいな返事を即答する。しかしすぐに付け足すように言葉を繋げる。

「でもきっと君の悩みは解決するよ」

 さらりとそう言う。正直、その自信はどこから来るのか伺いたいくらいだ。しかしトニーはゆっくりと顔をあげると、泣きそうな顔でロイとメアリーを見て、搾り出すような声で呟いた。

「・・・助けて、いなくなるのはイヤなんだっ」

 ついに涙がこぼれて、顔がくしゃくしゃに歪む。

「そのために私たちはいるんだもん」

 メアリーが言い終わると同時に再び足元に絵の具をこぼしたような黒い液体が現れ、そして今度は裏路地の景色ごと、すべてがぐらりと傾いたように変わった。



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