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「のど痛い…」

 久しぶりに大声を出したせいでさっきから喉の中がイガイガする。
 あれからすぐに担任が教室に入ってきたから切原も席についたのでその場は落ち着いた、ということになった。
 そして現在、昼休み。
 奴の目は不服そうではあったものの、大声を出したのが効いたのか何も言うことはなかった。それでもクラスメートの視線が痛いから弁当を食べたあと逃げるように購買にきたのだ。
 自動販売機に100円玉を投入して苺ミルクのボタンを押す。
 ガコンっ、という音がした。
 しかし心はここにあらず、さて観察していたことがバレた今、教室でどう過ごそうかと思案する。
 実際に切原を見ていたのは否定しない。最初に彼を見たのは彼が目立つ部類にいるからで、自分が人をつい観察するように見てしまう癖があるから、これも本当。癖は中々治らない、多分これからも切原が目立つ限り見てしまうだろう。
 というか、あいつは何であんなに腹を立ててるのか。
 悪口言ったのとテストの点数見たのは悪いかもしれないがそれ以外は理解不能である。

「だから、言えなかったんだってば!」

 つらつらと浮かぶ疑問に答えるようにちょうどよく聞こえた声に、知らず知らず肩が跳ねる。

「しっかりしろよー、つうかなんでキレてんだか」

「俺にはお前があの子の機嫌悪くしたようにしか見えなかったぞ」

「俺かよ!」

「そっスよ!丸井先輩が余計なこというから!!」

「うっせ!お前生意気!!」

「痛いっス!!」

 丸井先輩とやらに頭をぐりぐりと押さえ付けられ切原は呻く。
 何が何だかわからないが、私のことを話しているのはわかった、わかったがゆえに購買から逃げたくなった。
 が、スキンヘッドの先輩と目がバッチリと合ってしまい思わず金縛り状態になってしまう。

「おい、あの子」

 しかもじゃれあう切原と丸井先輩にチクった。
 気まずくて顔をそらしたいのに、こっちを見た切原の表情が私の数倍気まずそうだからそらせなかった。
 息苦しい、妙な空気。距離にして十メートル以下。
 さてどうしようと取り出し忘れてた苺ミルクを自販機から救出する。
 それこそ時間にして数秒。顔をあげると切原がこっちに向かって歩いてきているではないか。
 ぎょっとして固まっていると、あと一歩という距離まで歩いてきて止まる。

「な、に?」

 いきなりな出来事に思わず声が裏返る。

「…朝は悪かったな」

「は?」

「つうか昨日も。べつに悪気があったわけじゃなくて、委員長マジで俺んことよく見てるから、さあ…その」

 言いづらそうにどもりはじめる姿に何だかこっちが悪い気分になる。
 だが彼の言いたいことは何となくわかった。

「つまり最近やけに見てくるキモい女子がいきなり話し掛けてきたから警戒したってことだ」

「は?や、そこまで言ってねぇんだけど」

「つまりの話。じゃ、こっちも悪いことしたわけだ」

 あらためて向かい合い「悪口言ってごめん」と謝る。
 ぽかんと見てくる顔は普通の男子そのもの、目は当然赤くない。じっ、と返事を待つと「俺もごめん」と勢いよく頭を下げて後ろを振り返る。
 振り返った先には一部始終見ていたらしい丸井先輩とスキンヘッドの先輩が笑顔でいた。
 とにかく、最低限の問題は解決したということで。
 音子はもうクラスで目立たずに済む、と胸を撫で下ろした。



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