観察、する | ナノ


 熱気がむわりとまとわりついて全身被う感覚につい舌打ちをしてしまった。
 夏休み中の学校は当然人は誰もいない。忘れ物をしてたことをつい昨日まで忘れていて、揚げ句の果てに取りに来るハメになった音子は制服の首元を緩め、肩からズレた鞄を抱え直してして帰ろうと足を速める。すると再び汗が吹き出す、地球温暖化は絶好調らしい。

「あのすみません、海友会館はどこですか」

 校門から出る前にそう話し掛けられ、見ると他校の制服を着た、髪型の特徴的な男子だった。

「そこですよ」

「ありがとうございます」

 律義に頭を下げて、去って行った。しかし音子はぽかんとその場に立ち尽くした。


「今日変な髪型の人に会ったよ」

「どんな?」

「水泳キャップみたいな…あ、桑原先輩のスキンヘッドにキャップ被せて触角2本付けた感じ」

「そりゃどういう例えだ!!」

 身を乗り出して抗議するジャンルを横目に見ながらお好み焼きを作り続ける。

「それは恐らく、青春学園テニス部副部長の大石君でしょう。今日は全国大会の抽選日だったので、彼が代表として参加したのではないでしょうか」

「さりげなくキャップに二本の触角が付属しとると認めたのう。紳士が聞いて呆れるぜよ」

「そういうわけではありませんっ」

 柳生と仁王がぎゃいぎゃいと騒ぎ立てるのを気にせずに、マヨネーズを持ち、お好み焼きの上にかけた。

「つかなんで大石?」

「用事があって学校に行ったんです。そこでちょっと」

「はは、また倒れて助けられたとか?」

「切原、貴様には大量のもやしとキャベツを入れてやる」

「それ以上いれんのかよ!?うわやめっあーあー…」

 すでに乗せられたキャベツともやしを見て切原は絶望の声を上げた。

「メニューにはない安くて美味しいのをって言ったのあんたじゃん」

「せめて肉1枚入れろって!」

「10円上げるけどいい?」

「…そのままでいいっす」

 少し悩んだ末、そう言い切る。どれだけ金がないのだろうか、心配になる。

「ところで、先輩たち…なんでうちで晩御飯済ませてるんですか?」

 切原とジャッカルはよく来るが丸井はいない。仁王、柳生はあまり来ないが今日来ている。珍しい組み合わせだと、店に来た時驚いたものだ。

「真田君と柳君は幸村君のところです。彼らは仲が良いですから」

「ああ、部長さんが…じゃあ丸井先輩は?」

「あいつは弟達の面倒を見るために帰った」

「丸井先輩んとこは弟が2人いるんすよね、あっつ!」

 鉄板からの熱が顔にもろに当たったのか切原がのけ反った。相変わらず馬鹿である。

「お客様、危ないので離れてくださーい」

「言われなくても近づかねーよ!!」

「いや近づいてたろお前」

「うっせー!」

「痛ぇっ!」

 切原はあろうことか先輩であるジャッカルに対して頭を殴る暴挙に出た。

「切原君、暴力は関心しませんよ」

 さらに柳生まで加わり、ぎゃーぎゃーと騒ぎ出す三人を見ながら、この四人ではストッパーがいないことに気付く。

「静かにしてくださいお客様ー他のお客様の迷惑になりますぅ」

 こいつらわかっているのだろうか、今日が平日の夜ということに。この後すぐに店長たる母がやって来て四人にゲンコツを食らわしてようやく静かになった。

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