観察、する | ナノ


 午前のみの練習が終わって、テニス部レギュラーメンバーは昼ご飯を食べるために町にいた。

「あ、切原じゃん」

「あ?」

 用事のあるという真田を待っている間に、一人の少年が切原に駆け寄ってくる。まるで長年の友人のような話し方に「ご知り合いですか?」と柳生は尋ねるが、切原は「さあ?」と答える。などという会話のをしている間に、少年は目の前にやってきていた。

「よ!正月ぶりー」

「誰だよお前」

「あ、忘れてやがんの。バカだなー」

「なっ!んだとテメー!!」

「おい赤也、落ち着けよ」

 大声を出した切原にジャッカルはなだめるような口調で話し掛ける。キイキイ騒ぎ立てる切原を見ながら、少年はバーカと口だけを動かした。

「んで、お前誰だよぃ」

「にいちゃん達は?」

「質問に質問で返すのは関心できないな」

 柳の言葉に丸井は「そーだそーだ」と同意を示す。二人を見て少年は「しかたないなー」と口を尖らせた。態度がいちいち生意気である。

「ヒントいちー、初詣」

「は?」

「はいバカポイント追加ー」

 切原を指差し断言。短気な後輩の眉が器用にひくついたのを見たジャッカルは、頼むからキレないでくれと願う。

「ヒントにー、切原のクラスメートの弟」

「いっぱいいんだろが!」

「もう1ポイント追加ーっと」

 完全にバカにした仕種で笑い飛ばす。小学生に本気でキレはじめた切原をジャッカルは必死で押さえにかかった。

「しかたないなー。…最終ヒント!こわーい姉ちゃん」

 頭に角があるジェスチャーをしながら切原の様子を見る。切原は少し考えたあと、あっ、とした表情を浮かべた。

「あー!委員長の弟ー!!」

「大正解ー!!」

 わあわあといきなり話が弾み始めた切原と俊也を見て、柳生は眼鏡を少し上げた。

「切原君、結局その子は誰なのですか?」

「おんなじクラスの浅井の弟っス!」

「浅井俊也です」

 子供特有の高い声で礼儀正しくお辞儀する俊也を見て丸井は「うわ俺ん弟と全然違ぇ」とつぶやいた。

「浅井って誰じゃ」

「前の期末で赤也に勉強教えた奴だよ」

「ふーん」

 興味なさげに呟いて仁王は俊也の頭に手を乗せグリグリと掻き交ぜるように撫でた。

「うわっ何すんだよ!!」

「やめなさい仁王君っ」

「ピヨッ」

 パッと手を離した仁王は、頭のぐらつく俊也の額に今度はデコピンをはなつ。

「てっ!」

「仁王君!」

「プリッ」

「何してんだ」

「あまりにも可愛いから、ついやってしもうただけじゃ」

 まったく思ってもいないくせに言い切り、白々しい笑みを浮かべる。そんな仁王を俊也は睨ながら後ずさりし、最終的に切原の背後にまわった。

「うわっなんだよっ」

「あいつこそなんだよぉ」

「あーぁ、泣きそうな声出しやがって」

 切原の背中にへばり付く俊也の声に丸井は呆れたように仁王を見た。

「仁王君、小学生にあのような行為を取るのは関心しませんよ」

「相変わらず小煩いのう」

「つうかあの発言は危なすぎるだろ」

 そうか?などと言いつつ視線は俊也のほうへ向けたままである。しかし俊也も負けじと仁王を睨む。傍から見れば獲物を狙う蛇を睨み付ける鼠と言ったところか。

「おいおい…」

 ジャッカルは頭を掻きながら溜息をついた。

「往来の真ん中で騒ぐなど、たるんどる!」

 いきなり怒声が飛んできた。見れば威厳たっぷりの様子で歩いてくる真田がそこにいて、それを見た俊也はびくりとあからさまに震えた。余程驚いたらしい。

「弦一郎、子供がいるんだぞ」

 柳は自分も子供だということを棚にあげて、攻めるように言う。言われた本人は俊也に気付くとばつが悪そうに眉間に皺を寄せた。

「む、すまないことした」

「で?用事は終わったんだろい?」

 ガムを噛みながら尋ねる丸井に、真田は「ああ」と頷く。それを見た切原は大袈裟にガッツポーズをした。

「しゃー!やっとメシにありつける!!」

「その前に店探さねーと」

「ですがこの時間はどこも混んでいるでしょうね」

「あ、そっか…」

 柳生の言葉にがっくりと肩を落とす。わかりやすい奴じゃの、と仁王は呟いた。

「マックでよくね?」

「この時間だとまず座れないだろうな」

「この人数だと、さらに難しいだろうし」

「モスはどうでしょう?」

「高いっスよ!」

 7人はああでもないこうでもないと思案する。

「じゃあうちに来る?」

 ぽつりと。
 水滴がこぼれたような自然さでその言葉は7人の聴覚に届いた。いっせいに振り向いてきた年上の少年たちの視線に俊也は「うぇ?!」という情けない悲鳴を上げた。

「お前ん家?なんで?」

「ちょうど昼時だから」

 わけがわからない。その表情を読み取ったのだろう、すこし嬉しそうに笑った。

「まあついてきなよ、後悔はさせないからさ」


 その言葉から徒歩10分。

「ここがうち」

 そう言って俊也が示したのは、赤い看板が印象的な店だった。

「お好み焼き屋?」

「読んで字のごとくだよ、さあどうぞー」

 なんのためらいもなく引き戸を開けて「ただいま」と言う。どうやら本当に家らしい。

「商売上手なやつ」

「まったくじゃ」

 呆気にとられる2年生を前に切原はしみじみと思った。店の売り上げのために姉の学友や先輩を利用する容赦のなさが似ていると。

「いらっしゃいま…は?」

 そして暖簾をくぐった先には、驚く音子がいた。




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