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 ジュウジュウ、と聞き慣れた音が見慣れた鉄板から聞こえる。同じくらい使い慣れた大きめのヘラを構えて、鉄板の上で熱せられるものの下に滑りこませた。
 ごくり、と左右から固唾を飲む音が聞こえた気がした。そのくらいの緊張感が場を満たしている。それらを無視し、いつものようにヘラを持ち上げソレをひっくり返す。

「おおおぉ〜!!」

 本気で感心しているらしい歓声が響いた。ひっくり返したソレの形を整えるように飛び散った具材を集めて、ソースを刷毛で塗りたくる。そして仕上げに青のりを乗せる。

「元祖お好み焼きです」

 焼けたソースの匂いがする出来立てのお好み焼きをすでによだれを垂らしかけている丸井の前に移動すると、もう一つのお好み焼きの焼きを確認する。

「うまそー」

「お前のはあっちだろぃ」

「ちょっとくらいくださいよー」

「お前のは今焼いて…あ、このヤロー!!」

 兄弟ゲンカだ。
 晩飯を取られまいとしたが失敗した兄と、成功するも制裁を食らわされかけている弟の図式だ。などと考えつつ、切原のをひっくり返すためヘラを下に滑りこませて力をこめた。

「切原、丸井!落ち着かんかぁ!」

 その前に腹に響くような怒声が耳の横で聞こえ、あまりの驚きに動きが止まってしまう。横を見ると案の定テニス部副部長、真田弦一郎が鋭い目つきで切原と丸井を睨んでいた。

「食事の場で暴れるなど、たるんどる!恥を知れ!!」

「…ぴっ」

 凄まじい大声に、思わず変な声が出てしまう。うわー恥ずかしいーなどとは間違っても口に出せるわけがない。びりびりびり。空気が震えるとは言うが、実際に体験するとかなり恐怖を感じるものである。

「落ち着くのはお前だ、弦一郎。浅井が怯えている」

「…む、それはすまない」

「いえ…」

 柳の涼やかな声に鎮静化した真田。さしずめ荒れ狂うマグマに水をぶっかけた末に固まったといったところだろうか。

「ところでそれは大丈夫なのですか?」

 柳生が落ち着き払った様子お好み焼きの心配をする。眼鏡の奥が見えないのはどういう原理なのだろうか。

「あ、はい…多分」

 曖昧な返事をしたあとにまた、素早くひっくり返す。少し焦げていたけれど、許容範囲内だろう。

「はあ…」

 ソースの容器を持って溜息をこぼす。
 肌寒い1月最終週の日曜日。何が悲しくてクラスメートや先輩の接待をせねばならないのか。音子は面倒を連れ込んだ弟を怨んだ。



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