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 委員長、もとい浅井音子は変な奴だ。
 一見すると大人しくて気の弱そうな外見だけど、声にそんなとこはまったくない。
 むしろハキハキとしたかんじ。でも愛想はない。
 最初はちらちらとよく見てくる変な女子だと思っていた。それからしばらくしてテニスコートで初めて話したとき、ちょっとイライラしてた俺はつい突っ掛かる口調になっちまった。
 委員長は驚いた様子でじっ、とこっちを見ていただけだった。でも丸井先輩の余計な一言で大人しくて気の弱いというイメージはガタガタと崩れさった。

「それはありえねぇよワカメ頭」

「あんたらどつき回して川に沈めることだバカ」

 ありえない暴言のオンパレード、いや、にきびづらなんてこと言った俺もありえないかもだけど。
 ともかく十三年の人生ではじめてここまで口の悪い女子に出会った瞬間だった。


 さらに委員長はわりと何にでも無関心だ。
 テニスに関しては当然、運動全てに関わりのあることはほとんど知らないし興味も示さない。

「クラウチングブロックが未知の道具に見える」

「何それ」

「走るのに使うアレ」

「わかんねーよ」

「そうわかんないの、存在意義不明みたいな」

 そして続けて理解できん、と呟いた。
 俺も委員長が理解できねーと思った。


 そんな意味不明で頭は良いらしい委員長は俺に英語を教えてくれた。
 自分でも残念に思う頭脳の俺に、根気よくというよりかみ砕いてかみ砕いて粉にしたように教えてくれた。人に教える才能があると思う。
 ついでと言って他の教科の出そうなポイントだけ教えてくれたから、そこだけは勉強した。
 いくら俺でも校庭100周筋トレ50セットは無理だし。
 そしてテスト当日、俺はたまげた。
 委員長が言ったポイントがことごとく当たってる。そんなこんなで全教科平均点以上、英語は奇跡の70点。

「委員長マジで助かったぜ!」

「そりゃ良かったね」

 委員長は淡々と、だけどちょっと嬉しそうに笑う。
 だけど俺には気になることが一つ。

「そっちは?」

「何が?」

「何って…点数」

「なめんな」

 ふふんと鼻で笑い、目の前に解答用紙の束を突き出す。
 そこに赤ペンで書かれた数字の数々にぎょっとした。

「75、82、79、はちじゅ…ありえねぇ」

「できが違うってことだね」

 すこし得意げに胸を張る。
 つまり俺と自分の面倒見るくらい簡単だったらしい。


 さらに毒舌かつ秀才な委員長はたまに変な言葉を喋る。

「切原、あれ取って」

「はあ?どれ?」

「掃除ロッカーの上のちりとり、私の身長じゃどうやってもたわん…」

「…へ?」

「…届かなくて」

 それより取ってよ、とごまかすように急かされてその場はうやむやになった。
 後から柳先輩にそのことを話すといとも簡単に謎は解けた。

「「たわん」は「届かない」という意味で関西、とくに中国地方で使われる方言のひとつだな」

 なんでそんなことを知ってんだろこの人。
 柳先輩は何者なのか、それは考えても解けそうにないけれど、委員長のことは少しわかったからまあ良しとしよう。


 無愛想で、口が悪くて、興味のないことにはまったく興味がなくて、頭がいいくせに謎の発言をして、実は関西出身のクラス委員長、浅井音子。
 ちょっと変な、そこそこおもしろい俺のクラスメートだ。



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