「わあー!!」

なまえの声に我に返る。刹那空に咲いた打ち上げ花火。
思わず足を止めると、及川が引っ張って小声で言った。

「こっちに穴場があるから」
「…なんだよ」
「二人きりで頑張って」

ウインクした及川はいつもだったら殴っている所だが、ここは目を瞑ってやる。
及川はそのままどこかへ行って、なまえはそれに気付かない。少し罪悪感を覚えながら肩を叩く。

「はい?」
「あー、こっち行くぞ。ここだと見えにくいだろ」
「えっ、あっ、いいですよ。ここからでも充分見えます」
「いいから」

なまえの腕を引いて及川が言っていた細い道を進む。
さっきから心臓が煩い。沈黙が気まずい。
つーか及川、何でこんなことしたんだよ。
心の中で悪態をついた。



彼が私の腕を引いている。
そう自覚すると頬が燃えるように熱くなった。腕が、彼が触れている腕が熱い。
下だけを見て、腕を意識しないようにした。



「おー綺麗だな」
「そ、そうですね」

及川は嘘は言っていなかった。見晴らしのいい高台から綺麗な花火が見える。
俺はそっとなまえを盗み見た。さっきは浮かない顔をしていたが花火で笑顔になっている。
俺もつられて笑顔になった。

「あ!岩泉さん!あれ、綺麗です!」
「ああ、そうだな」

年相応のはしゃぎぶりに妹のようだと感じた。
まあ、夏祭りも悪くないな。



綺麗な花火に自然と心が踊る。夜空に咲く色とりどりの大輪は眩い輝きを放っていた。
まるで彼のようだな、と考えた所でポエミーな自分を恥じた。
ふと彼を見るとこちらを見て笑っていた。何か失態でもやらかしてしまったのかと慌てると、彼は妹が出来たようだと言って私の頭を撫でた。
いつもなら嬉しくて飛び上がりそうになるのだが、さっきの一言で落胆する。
妹、なんて。



なまえの頭を撫でたがまた浮かない顔をしていた。何か嫌な事でも言ってしまったのだろうか。

「あ、悪い!何か嫌な事言っちまったか?」
「え、あ。そういう訳ではないです」
「じゃあ俺、何かしたか?」
「いえ、なにも。大丈夫ですよ」

なまえの作り笑いは分かる。今にも泣き出しそうな顔をしているから。
俺は意を決して手すりに置いていたなまえの手に俺それを重ねた。
彼女の息を呑む音が聞こえた。



何でもないと笑ったのに、彼は浮かない顔をしていた。可笑しいな。笑顔は完璧な筈なのに。
彼がそんな顔をしてしまったら、私まで泣きそうになってしまう。
不意に彼の手が私のそれに重なった。
私は驚いて彼の顔を見ると、吸い込まれそうな真剣な瞳に目を奪われた。





凄く短いシリーズで終わりそうな予感


prevbacknext
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -