オオカミと1匹の子やぎ
ドンっと顔の真横に彼の手が置かれた。びっくりして変な声が漏れる。その声にいつもは馬鹿にしたように笑うはずなのに、今は何も言わない彼が怖くて顔も見れない。助けて、と願うけれど、生憎人気のない廊下なので誰も来ない。
「…く、くにみ、くん?」
「…」
問いかけても返事はない。何かやらかしたっけ。考えてみても、思い出そうとしても見に覚えがない。どうしよう。涙が浮かんだ。
「…さっきの、だれ」
「え?」
「だから、さっき隣にいたやつ」
「さっきって…」
必死に思い返してみる。さっき、さっき…"やつ"というのだから男子なんだろう。隣にいた男子、といったら。
「あ、橋本くんのこと?」
「…そいつ、なに」
「手伝ってもらってただけだよ。荷物重そうだねって、持ってくれて…」
「それだけ?」
声が聞こえたかと思うと、次の瞬間私の顔は上を向かされ、壁に挟まれて身動きが取れず、国見くんの顔が近づいてきて、私の唇が食べられた。
人気がないと言えど、学校は学校。いつ誰かが来てもおかしくない状況で。でもいつもとは違う彼の射抜くような視線に胸の辺りに変な感じがして。
「くにっ、み、くんっ!」
「なに」
「あの、怒ってるならごめんなさい。でも私、何したか覚えてないから、直すから、教えて。私変なことした?」
「…覚えてないなら別にいい」
彼はむすっとした顔で言うと、壁から手を離しそのまま帰ろうとした。
慌ててその手を掴んで待ってと叫ぶ。
声が廊下に響いて消えた。
「教えて、悪いことしたなら、ちゃんとなお、」
「頭」
「え?」
「撫でられてたよね」
「…あ、うん」
「それがやだ」
「え?」
「だから、無防備すぎって言ってんの。頭撫でられて嬉しそうにして…なまえの頭撫でていいのは俺だけ」
そういえば頭を撫でられたっけ。というか、最後の言葉に頬が熱くなって誰もいなくてよかったと思った。
「…ごめんなさい。気をつけます」
「許さない」

また壁に押し付けられ、今度は深く口づけられる。私が思うに、国見くんはドSな気がする。こんな誰かが来てもおかしくない状況でこんなことするって。
だんだん力が抜けていって、国見くんのシャツを握る。酸素が足りない。全部彼に食べられてしまう、そんな感覚。

「はぁっ…はぁ…」
「続きは、また今夜」
「…え?」
「一緒に帰ろう」

不適な笑みを浮かべた国見くんは私の頭を撫でて、部活行ってくるとどこかへ消えた。私はそれどころではなくて、これから起こるであろうことにいっぱいいっぱいで、でもさっきの国見くんかっこよかったなと思って、要約すると頭の中がぐちゃぐちゃになっているので、とりあえず目を閉じた。



オオカミなんて怖くない、というが、私はとっくに食べられてしまっているので、怖くなんかない。彼が食べたものしか口にできないのだから。つまり、彼がいないと私は生きていけないのだ。


みそら様
リクエストありがとうございました!
お待たせしてすいません。国見くんの誕生日に間に合わせようとしたのに…!
色気が難しかったのですが、ご期待に添えたものになれたでしょうか?
楽しんでいただければ幸いです。
これからも飛来をよろしくお願いします!

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