眠れる保健室の彼女 恋煩い、とでも言おうか。 一昨日席替えをしてからどうも調子が悪い。食事も喉を通らないし、何だか異様に頬が熱いし、忘れ物も多くなったし、よくぶつけるようになったし、何だかすぐ疲れるし、面倒くさくなるし。何とも形容し難いこれを恋煩いというべきか否か。 なんて小難しいことを考えてみるものの、私のちっぽけな頭ではすぐにショートしてしまうのである。 「なまえー?次体育だよー?」 「え!?今行く!」 ぼんやりしていてはいけないようだ。 私は走って友達の元へ向かった。
さて、私の恋の相手は隣の席の彼である。名前を茂庭くんと言う。下の名前なんて呼べない。どうかわかってほしい。 そんな彼に好意を抱いたのは四月の始め、クラス替え後とでもいうのだろうか?まあ始業式のことである。 ドキドキしながらクラスに入り、隣の席にいたのが茂庭くんだった。彼は笑顔でおはようと挨拶してくれて、一年間よろしくね、とこれまた丁寧に挨拶してくれたのである。それ以来心臓を撃ち抜かれた私は、色々と努力している。詳しいことは割愛。 「なまえ、大丈夫?」 「何が?」 「いや、顔色悪いよ?」 「そう?最近眠れなくてさー」 「何かあったの?」 「いや、特に。ただ眠れないだけ」 適当に誤魔化し茂庭くんを探す。見つけた。今日が男女合同な種目でよかった。外というのは嫌だけれど。 「なまえ?」 ああ、暑い。恋をするとこんなに暑くなるのかな。夏だから仕方がないか。へましないように頑張らないと。恥ずかしい所見せたくないから。 「え!?ちょ、なまえ!?」 あれ?何でか力が抜ける。太陽が眩しいな。 そこで意識が途切れた。
セミの鳴き声がする。目を覚ますと白い天井が見えた。何でだろうと思いながら体を起こす。すると。 「みょうじさん、よかったー」 なぜか茂庭くんが。
え。
動揺しすぎて、というかもう、パニック。 「へ、へ!?な、なんで?」 「あ、みょうじさん。よかったー」 「あの、何で、茂庭くんが、ここに」 「あ、それは…その、そう!急にみょうじさんが倒れたから!ここまで運んで…ご、ごめんねみょうじさん、勝手に運んじゃって…」 「…え?」 これって、その、茂庭くんが、私のことを、運んでくれたということだろうか。ということは体重…。 「ご、ごめんね茂庭くん!私、重かったでしょ!?本当にごめんね!!」 恥ずかしくて顔から火が出そうだ。こんなことなら、ダイエットでもしておけばよかった。 「…ぷっ」 「え?」 「あ、ごめんね!つい、みょうじさんが可愛くて…って何言ってんだ俺!!えっと、これは、その…」 思考が停止した。頬が急激に熱をもっていく。心臓が掴まれたようにいたい。そんなつもりで言ったのではないとわかっているけれど、でも期待していたい。 ごめん、またね。と彼が立ち上がって、 思わず彼の手を掴んでいた。 「みょうじさん!?」 「…あの、」 こんなところでいうのもなんだけど。 前置きはこのくらいにして。 大きく息を吸う。次の瞬間、思いが口から溢れ出た。
かの有名な眠れる森の美女さんは、 王子様の口づけで目が覚めたらしいが、 私たちはというと、 セミの鳴く音で目が覚めたという、 なんとも愉快な話である。
サザンカ様 リクエストご参加ありがとうございました!! ちなみに一番目です。(笑) ご期待に沿えていますでしょうか。 温かなメッセージとても嬉しい限りです!! これからもよろしくお願いします。
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