青い小鳥が幸せを運んできたようで よし、みんなで遊ぼう。 及川がそう行ったのは確か先週のこと。そして今私たちがいるのは、ショッピングモールだった。男子バレーボール部勢揃いで紅一点の私。何でこうなった。 「よし。皆揃ってるね、じゃあまずどこから行く?」 「俺服見てぇな」 「まず何か食いてぇな」 「帰りたいなー」 「協調性!協調性持って行こうよ、三年生」 「俺も帰りたいんですけど」 「…眠い」 「もういいよ、俺が決めるから!じゃあ定番のプリクラでも撮ろう」 「野郎ばっかで気持ちわりぃだろ」 「なまえちゃんがいるじゃん」 「拒否。ただちに撤退する」 「賛成。つーことでじゃあな及川」 「まってマッキー!皆も帰らないで!交流を深める会なんだから!」 渋々及川の後についていくことになった私たちは、取り合えずゲーセンという彼の指示でゲーセンへ向かった。 向かうはずだったが、一、二年生は消えていた。 「うわー、みんな酷い!!」 「俺らだけか、巻き沿いくらったの」 「練習量倍にしよ」 ぼそっと呟かれた誰かの言葉に、心が狭いなと思った。まあ少し腹はたつけど。 「じゃあはいプリクラー!」 「だから野郎だけで撮んのかよ」 「なまえちゃんがいるじゃん?」 及川がこっちを見てにっこりと笑う。絶対やだと言おうとすると、彼は近づいて。 「岩ちゃんと撮れるよ?」 私の耳元でこっそりと耳打ちした。 何でそれを。聞こうとしたが、さっとみんなのところへ行って早く撮ろうと騒いでいた。 なんで、なんで。 及川に勘づかれたことに驚いたが、それより岩泉も、花巻も松川も気づいているんじゃないかと不安に襲われて気が気ではなかった。 「みょうじ、大丈夫か?」 「あ!うん、へいき、」 「本当に大丈夫か?」 「うん。大丈夫」 挙動不審になってしまった。大丈夫、ばれてない。ばれていても……いや、それはちょっとやばい。 頭の中がパンクしそうだ。 「これこれ!写りがいいやつ!」 「よく知ってるな」 「遊びまくってるからだろ」 「岩ちゃん心外!てゆうか、岩ちゃんだってマッキーだって撮ったときあるでしょ!!」 「まあね」 「それは……断れねぇだろ」 「俺は?」 やっぱり無理。岩泉と撮るなんて。 言い訳して逃げよう。だって、絶対、心臓がもたない。 さっきの言葉が耳にこびりついて離れないんだ。 岩泉は彼女と撮ったってこと?いつ?どこで?どんな人と? 駄目だ。今の私、酷い顔。 「……松川」 「どうしたみょうじ。って本当にどうした?」 「ちょっとトイレ」 「わかった」 心配そうにこちらを見る松川に少し罪悪感がわく。ごめん、嘘。 早足で歩く。及川の呼ぶ声が聞こえたが、聞こえないふりをして歩く。 駄目だな、私。そうなの?って笑えばよかったのに。笑って流せばよかったのに。それか、彼女いたのって驚いたふりをすればよかったのに。考えれば、たくさん方法はあったのに。 何で背けてしまったんだろう。 トイレへ駆け込むと、案の定酷い顔の私がいた。溜め息を吐き、このまま帰ってしまおうと、及川に体調不良で早退します、と送った。既読はついたが何も返してくれなかった。スルーかよ。 頬を一度叩いて、鏡の中の私を見た。 頑張ったね。いろんな感情を堪えたこととか、もろもろ。だからもういいんじゃない。疲れたでしょ。 慰めの言葉をぐだぐだと並べ、自分に背を向けてお手洗いを後にした。 せっかく来たのだから、とぶらぶら歩くことにした。しかし、それが間違いだったのだと気づくのはすぐ後だった。 「…みょうじ」 「いわ、いずみ…なんで、」 「体調悪いって聞いた、及川に」 「うん、ちょっとね、」 「本当か?」 岩泉のこういう所が嫌だ。妙に勘がいい所。嫌いなわけではないけど、今はこの嘘がばれてしまうから。 道の端に寄って立ち話。 「うん。まあ休めば大丈夫だから」 「帰るのか?」 「そうしようと思って」 「じゃあ送る」 「え?いいよ。みんなと遊んでなって、せっかく休みなんだし。及川じゃないけど、親交を深める的な」 「別に、もう三年も一緒にバレーしてんだからいいべ。暑苦しいし」 「そう?」 どうやって乗りきろう。岩泉と話せて嬉しいはずなのに、心から喜べない私がいて。苦しくて、早くここから逃げ出してしまいたいと思った。 「ほら、行くぞ」 「ほんとに、大丈夫だから。みんなの所に、」 「そんなに嫌か?」 唐突に遮られた。その言葉の真意がわからなくて彼の顔を見ると、酷く傷ついた顔をしていて心臓がぎゅっと締め付けられた。 「……何でそんなこと聞くの」 「避けてるから、お前が」 「避けてなんか、」 「いるだろ。こっち見ようとしねぇし」 「それは、」 それは、何だろう。 私は岩泉のことが好きだから? やましさがあるから? そんなこと、言えるわけがない。 私は続く言葉を見つけられず、顔を伏せた。 「……」 「みょうじ」 名前を呼ばれた。そのことだけに驚いて肩を揺らした。恐る恐る顔を上げると彼の目が、真っ直ぐこちらを見ていて。
「俺は、お前が好きだ」
音が止まった。人の波も見えなくなった。私の鼓動だけがはっきり聞こえる。世界に二人だけ。そんな気がした。
「……うそ」 「嘘じゃねぇ」 「なんで、私なの」 「悪いかよ」 「違うけど、驚いて、」 「そうか…返事はまだいい。ただ言いたかっただけだしな」 自嘲気味に笑った彼は、帰るぞと私に背を向けた。 喉が乾いている。舌が貼り付いて声が出せない。身体中の水分が、一気に目元へ集まる感覚。 ああ、多分。 これが幸せってことなんだろう。
「いわいずみ!」 「なんだよ、早くかえ、」 「好き!だいすき!世界で一番すき!!」
世界の中心で愛を叫ぶ、なんて。
照様 遅くなってしまって申し訳ございません! 青城と遊びにいってから岩ちゃんとはぐれる、はいかがでしたか?口調がわからない人が若干いましたがおきになさらずに。 これからも飛来をよろしくお願いします!
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