ぐっと伸びをして窓の向こうの空を見た。青く澄んでいて、しかし遠くにどんよりと黒い雲が見えた。
「いわいずみー」
「なんだ」
「もう梅雨だね」
「そうだな」
「明日は学校かー、やだなー。髪まとまらないなー」
「そうか」
「さみしいなー、誰かさんは相手にしてくれないしなー」
「そんなのいつでも出来んだろ」
「いつでも出来るけど出来なくなるかもしれないのになー」
じとりと誰かさんを見つめると、降参だというように寝転がっている私の隣に座った。
「何して欲しいんだよ」
「うーん、あ。飲み物取ってきて」
「ここまで言って結局パシリかよ」
「いたっ」
私の頭を叩きそのまま部屋を出ていった彼。何だかんだ言って優しいな。頬の緩みが収まらない。

「お茶」
「ありがとうございます」
ぱっと飛び起きて丁寧に座礼した。何か気色悪いと言われたから、失礼な!とそこにあったぬいぐるみを投げつけた。当然避けられた。
「あーあ。梅雨だ、いやだなー」
「そうかよ」
「ナメクジいるしさ、カエルは許すけどうるさいしさ」
「それ許してんのか?」
「許す」
お茶をすすると急に岩泉に頭を撫でられた。突然滅多にしないことをしてきたから、心臓が驚いて血液を身体中に早く回し始めた。
「ど、どうしたの?」
「いや、別に」
猫を撫でるように、時折髪をくるくると指に巻き付けながら頭に触れる。
何だかむず痒くなって彼の頭を撫で返した。
「お前こそどうしたんだよ」
「お返し」
今の私は多分真っ赤になっているから説得力なんて皆無。だんだん恥ずかしくなってきたのでベットに飛び乗った。そのまま布団を頭から被る。ふわりと彼の匂いが鼻を擽った。
「…なまえ」
「きゅ、急にどうしたの?岩泉何か変だよ」
「そうか?」
ぽすり。大きく揺れた。彼はベットに座ったようだ。
「あー疲れた」
掛け声と共に私の上に何かが覆い被さる。暑い。重い。思わず布団を蹴っ飛ばした。
ぱちりと目の前にいた彼と目が合う。
するとなぜだか胸が締め付けられて。
ぎゅっと岩泉を抱き締めた。
「お前もどうしたんだよ」
「…何でもない」
彼はくすりと笑うと私を抱き締め返し、そのままベッドに寝転がった。
「今日、このまま寝るか」
「う、ん…岩泉はそれでいいの?」
「逆にお前はいいのか、出掛けなくて」
「…岩泉といれればそれでいい」
「お前な……」
呆れたような照れたような声が聞こえたかと思うと、唇に彼のそれが触れた。
「あんま煽んなよ」
「あ、煽ってない!寝るんでしょ、おやすみ!」
「おう、おやすみ」
照れると声が大きくなることを彼は知っている。だから何も言わずにそのまま目を瞑ったのだ。
そんな優しい彼の隣にいれる幸せを、今はただただ噛み締めた。
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