「暑いね」
触っている猫に呟くと彼女−彼かもしれないが−はニャーとだけ鳴いて気持ち良さそうに目を細めた。
あ、絶対分かってないなこいつ。
猫に別れを告げ側に置いておいた買い物袋を手に取る。幸い、冷やさなければならない物はなかったが、数分程しか置いていないのにも関わらずそれは暑くなっていた。
まだ梅雨にもならないというのに、本当に異常気象だといいたい。
「暑い……」
空を見上げると、東の空に雲が。青い空を背景に見事な出来映えだ。
雨が降る前に帰らないと。

「なまえ」
「あれ、はじめ?」
買い物袋を持ち直すと恋人の声がした。
振り返ると重そうなリュックを背負ってこっちを見ている。
「買い物か?」
「うん。はじめは、部活終わったの?」
「ああ。最近びっしりだったから今日は半日だと」
「へえー。じゃあご飯は」
「まだ。家帰ってから食う」
「そっか」
隣にやって来て改めて身長差を感じた。何だか負けた気分だ。
するとはじめは何を思ったか、私の手の買い物袋をひょいと奪い取った。
「え、いいよ、自分で持てるし!」
「別にいいだろこれくらい。ほら行くぞ」
「あ、待って」
優しいな。本人に言っても当然だろ、というふうに返されるから言わないが。
「あー腹へった」
「アイス食べたいね」
「もっと腹の足しになるもんがいい」
「えー……スイカ?」
「ぶっ、何でだよ」
「何でって……何でだろう?」
「焼きそば食いてぇ」
「みょうじ家はたこ焼きでした」
「お好み焼きも食いたくなってきた」
「はじめは焼いたものが食べたいの?焼きとうもろこしとか焼き鳥とか?あ、でも腹の足しになるものだっけ。わかんないな」
「とりあえず食えればいい」
下らない話がこんなに楽しいとは。

ああ、まるで世界が煌めいて。


「ねえ、はじめ。何が欲しい?」
「別に。もうここにあるしな」

そう言って笑う彼は確信犯だと思う。



岩泉happy birthday!


タイトルを沈殿様よりお借りしました
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