「みょうじは黒板と日誌書くの、どっちがいい?」
「私は…黒板」
「嘘だろ…そこは日誌って言えよ」
「ごめんね、じゃんけんだから」

今日は日直だった。お隣は黒尾くん。
背の高い彼はバレー部で、しかも主将だという。主将だから威厳があるのかと思いきやそうではなく、普通のそこら辺にいる男子と何ら変わりなかった。
強いていうならモテるという所か。

彼が告白されている所を見かけた人は少なくない。体育館裏、教室、廊下…所構わず唐突に告白されるという。
すっげー迷惑。彼は笑いながら言っていた。

「ここはさ、女の子なんだから、私、日誌書くよ!とか言ってくれれば…」
「だって私、字汚いから」
「いや、俺の方が汚いから」
「あ、そう」
「終わらせるのかよ」
「早く書いてね」
「へーい」

黒板消しを手にとって色を消していく。
個人的に、あまり黒板に字を書くのは好きではなかった。
書きずらいし、手が汚れるし、だんだん曲がっていくし。
あまりいいことが無いな、と思う。
落書きは例外。

右半分が終わったので少し休憩。
黒尾くんを見ると、真剣に日誌を書いていた。

意外。

そこら辺の男子はペン回ししていたり、落書きしていたり寝ていたりと違うことをやっていたりするのだが。
少し彼の好感度が上がった瞬間だった。

「ん?どうした?」
「ううん。何でもない」

仕事再開。
隅々まで気を配って消し残しが無いかチェックする。
生憎背は低い方ではないので、男子にやってもらう、なんてシチュエーションはない。背が高くていいななんて言われるが、高い所に手が届かない身長のほうが私は羨ましかったりする。

ちっちゃくなりたいな。



窓を開けてすっかり白くなった黒板消しを叩く。
風にのって粉が飛んでいく。その先には夕日が沈んでいて、街が赤く染まっていた。

「おー、綺麗だな」
「うわっ、びっくりした…急に後ろにいないでよ」
「いや、さっきからいたから」

つーか、この景色いいなー。
じとりと睨んでみるものの、視線は交わらずに終わった。

「てかさみぃ。早く終わらせろよ」
「やだ、さっきの仕返しですー」
「さむくねぇの?」
「全然。むしろ今日はあったかいでしょ」
「どうかしてる…」

パフパフと叩くと粉が舞う。
シャボン玉とかだったら綺麗なのにな。

もういい頃合いかと黒板消しを置いて手についた粉を落とす。

「やっと終わったか。じゃあ窓閉めるぞ」
「えーやだ。まだ開けとく、換気だよ換気」
「今決めただろ」
「ばれた?」

へらっと笑うとにやっと笑われた。
怪しい人みたいと言うと、お前は変人だなと言われた。木霊かよ。

「あれ、日誌は?」
「終わった」
「え、そうだったの?」

てっきり寒いからこっちに来たのかと。
じゃあこれで終わりだー、と窓に背を向けた。

「きゃ、」
「うおっ」

突然強い風が吹いた。カーテンが舞い上がって私たちを包んだ。

「びっくりした、心臓止まるかと思った」
「ぶひゃひゃひゃ、今の、みょうじの、顔、ぶっ」
「…別に、驚いただけだし」
「あーおもしれー、写メとっときゃよかった」
「黒尾くんは、私の学校生活をめちゃくちゃにする気ですか?」
「いや、お前に毎日送りつけてやろうかと」
「最低。変態。ドS。バカ」
「勝手に言ってろ」

ああ、恥ずかしい。変な顔、見られたなんて。窓なんて開けなきゃよかった。

「でも、可愛かったぜ?さっきのみょうじ」
「へ!?」
「ぶっ、だから笑わせんなって」

黒尾くんはまた笑って私の頭を撫でた。
そして、するりと降りて私の乱れた前髪を彼の手が直す。

えっ、えっ。

「ちょっと、」
「いやか?」
「じゃなくて、なんで、」
「んー、好きだから」
「へ!?」


…いや、あの、え?


「…冗談じゃん。ドッキリ、でしょ?」
「んなわけねえじゃん」
「いや、だって、そういうのって、もっとムードとか、」
「それは、悪かった。…もっとムードとか大切にしてるやつのほうが、みょうじは好きか?」


困ったように笑う彼に言い返せなくなった。
… 私も彼が好きなのは事実なようで。

「……ううん。私は、」

言うんだ。ちゃんと。

「私は、いつも面白くて、明るくて、笑い方が変で、髪型も変で、たまに悪い顔するときもあるけど仲間思いで、いやって言いながらやってくれる優しい人が好き」
「……やられた」

黒尾くんは手のひらで顔を覆ってぶつぶつ何か言っていた。
隠しきれていない耳が真っ赤だと笑いたかったが、私も人のことを言えない立場なもので。

「…みょうじ、それって、自惚れていいんだよな?」
「…どうぞ、ご自由に」
「……いや、やっぱ聞かせろよ。俺、ちゃんと言ったし」
「…やだって言ったら?」
「……どうしよっかなー」

意地悪く笑う彼が、惚れた弱味なのかかっこよく見えた。

「…好きだよ、ばーか」
「最後のいらねえな」

私たちは笑いながらカーテンを捲った。


クロHappy birthday!!
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -