「あの!二口くん!」
「うわっ!吃驚した。驚かせないでよ」
「ごめん・・・」

放課後、先生が彼に居残り掃除とプリントを書かせていた。それはわたしのせいなので、気まずい気もあるが少しでも手伝おうと声をかけたのだ。

「えっと、あの・・・わたしも手伝うよ」
「え?何で?」
「だってわたしのせいだし・・・」
「別にいいよ、みょうじさんは部活に行きなって」
「・・・やだ」
「やだって」

彼はくすりと笑った。その笑顔にドキっとしたが、それがばれないように下を向いた。

「いいの、わたしのせいだから。二口くんこそ部活に」
「じゃあいいよ、一緒にやろう?」
「え!?」

驚いて勢いよく顔を上げたが、彼と思いきり目があって逸らした。

「一人でやるより二人の方が早く終わるし」
「え、でも…」
「うじうじしない。じゃあみょうじさんはこっちのプリントやってよ」
「え!あ、はい」

いつの間にか彼のペースに呑まれている気がする。
でも心なしか彼の顔が微笑んでいるので、しょうがないと彼の隣の席に着いた。



黙々と書き進めるプリントの合間に彼の顔を盗み見ていた。
肌きれいだな、いいな、女の子みたいな肌だな、スキンケアとかしてるのかな、触ったらスベスベかな…。
いけないいけない。わたしとしたことが変な方向に…。集中しなくちゃ。

「みょうじさん、あんまり見られると集中出来ないよ」
「うぇ!?」

気付かれていたらしい。
わたしの声にくすくすと笑う彼はプリントに目をやったままだった。どこに目があるんだ。
わたしは見ていたことに気付かれたのと変な声を出してしまったのとで顔が熱くなっていった。
あああ、早く終われ、早く終われ。
再びプリントの空欄に書き込んでいると。

「みょうじさん、ここ、間違ってる」
「うそ!?どこ?」
「ここ」

彼は身を乗り出して指を指した。
そこはわたしが一番苦手なところで自信がない問題だった。

「ここはこうして…」

彼の分かりやすい教え方に思わず感嘆の声を上げた。

「凄い分かりやすい!ありがとう!二口くんって先生になれるよ!」
「先生にはならなくていいかな。でも、」

彼は鉛筆をくるくると回しながら続けた。

「みょうじさん専属の先生にはなってもいいよ」

彼は酷い人だ。
そんな笑顔で言われたら勘違いしてしまうではないか。
火照る顔を両手で隠した。途端に笑う彼。

「…二口くん…」
「ん?なに?」
「変なこと、言わないでよ」
「変なことって?」
「だから!…せ、専属の先生とか…すっ…、好きな人、とか…」

多分彼はわたしが恥ずかしがるからわざと言わせている。
彼は肩を震わせて笑いを堪えていたが、堪えきれずに声を上げて笑い出した。

「はははは、ご、ごめっぷ、ははは!」
「わ、笑わないでよ!」

彼はたっぷり一分程笑い続けると涙を拭いて言った。

「ごめんごめん。みょうじさんが面白くてつい」
「…絶対もう話さないから」
「ごめん冗談だって」

彼はもう一度謝ると、机に鉛筆を置いて真剣な顔になった。
彼の初めて見る表情に驚く反面、規則正しいリズムが崩れて速いテンポで心臓が刻む。

「でも、好きな人っていうのは冗談じゃないよ」

真っ直ぐな瞳に堪らず視線を逸らした。

「ちゃんと俺の目、見て」

幼い子に教え諭す口調で言われてそっと視線を合わせた。

「俺は、みょうじさんのことが好きだった、ずっと前から。あ、今もね。みょうじさんは、俺のことどう思ってるの?」
「わ、わたし、は…」

どう思っているんだろう、二口くんのこと。
さっきまではお隣さんとしか思ってなかったけど、好きって言われて意識してしまって。でもこれが好きなのかはわからない。二口くんはかっこいいし、優しいと思うけど、好きかと聞かれたら本心から好きとは言えない。
でも告白してくれた人を振るなんて出来ない。

「変な気、使わなくていいから。本当のこと言ってよ」

驚くわたしに彼は微笑んだ。
わたしは意を決して口を開いた。

「あの、えっと…ごめんなさい。わたし、二口くんのこと、よくわからないの。友達としては好きだし、かっこいいって思うけど、これが好きっていうのかわからないの。だから、ごめん…」

最後の方は彼の顔をまともに見れなくなっていた。
申し訳なくてここから逃げ出してしまいたい気持ちになった。

「…でもさ、嫌いな訳じゃないよね」
「うん」
「よかったー。じゃあまだ希望はある訳だ」

彼の言っている意味が分からなくて顔を上げると、満面の笑みを浮かべた二口くん。

「じゃあ覚悟しといてね、みょうじさん」
「え、なにが?」
「えーここまで言ってもわかんない?」

彼は苦笑混じりに言うと、わたしの髪をすくってあろうことかキスをした。
至近距離で見つめられて、わたしは恥ずかしさのあまり顔から火がでそうだった。

「じゃあ、また明日。あ、覚悟しといてよね?」

あざといです、二口くん。


(髪へのキスは思慕)
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