彼女の指差す先にはくもが 花宮
「なにやってんだ、バァカ」
「うう、ごめんねまこちゃん」
いつからだろう。
彼が隣にいる彼女を意識していると気付いたのは。
いつからだろう。
彼女が彼に話し掛けられるだけで頬か薄紅色に染まることに気付いたのは。
いつからだろう。
彼が隣を歩いてくれなくなったのは。
「まこと、帰ろ?」
「ああ。ってことだ彩」
「!!酷い!みょうじさん、なんか言ってやって!」
「ふふっ、楽しそうだね」
「んな!?もー!!」
そんな顔で照れないで。
私が益々惨めになるじゃない。
私は曖昧に笑って、先帰っちゃうよ?と言うと、ああ行く、という声とともにがたっと椅子が引かれた。
名残惜しそうに彼の瞳が彼女を映す。
彼女も彼を見つめた。
嗚呼。
ぎいっと心臓が嫌な音をたてる。
嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬。
そんな目で私を見たこと、一度もないよね。寂しそうに名前を呼んだこと、ないよね。本音を言ってくれたことも、ないよね。
どうして。
彼女が羨ましい、妬ましい、ずるい、酷い、悲しい、彼女になりたい。
いっそのこと、彼女を殺してしまおうか。
そこまで考えて、真が前に立った。
「…なまえ」
「帰ろう」
くるっと後ろを向いて歩き出した。
ほら、やっぱり、私のこと、知っているのね、わかるのね。
私があの子を殺そうと思うと、あなたは私に甘くなる。
本心から、私があの子のことを嫌っているって、わかってるのね。
でもね、私はそんなこと知らないわ。
あなたがわかってるって知らないわ。
知らないわ知らないわ。
明日、天気、雨だって。
そうか。
傘、忘れないでね。
俺がそんなヘマすると思うか。
ううん。なんとなく、言いたかっただけ。
そうか。
あ、そうだ。私、明日用事あるから先帰ってるね。
わかった。
じゃあ、また明日。
じゃあな。
明日、いつも隣を歩いている彼女が消えたら、あなたはどんな顔、するでしょうね。