赤葦くんとお話し 

膝を抱えていた。別にだから何なんだという話。特にそれに意味なんて無かった。ただ膝を抱えたかっただけだった。

わたしと赤葦さんが見た化物の正体。それがわからなくて怖くなる。もしかしたら本当の自分かもしれない。もう一人の自分、影、全然関係のない別人。色々な考えが浮かび上がっては消える。
瞼を閉じると思い出す。鮮やかな赤。わたしのお腹に刺さっていた、キラキラと輝くガラスの破片。赤と白のコントラスト。

「みょうじさん」
「あ、赤葦さん。どうしたんですか」
「いや、特になにも」

言いつつわたしの隣に腰を下ろした赤葦さんの意図がわからない。ただ警戒心とかそういうものは無さそうだ。

「……さっきのことなんだけどさ」
「はい」
「みょうじさんはどう思う?あれについて」

おもむろに切り出された言葉たち。やっぱりそのことか、と勘が当たった。あれというのは自分によく似たモノのことなんだろう。

「あれは……正直よくわからないです。本当のわたしか、もう一人の自分か、別人か」
「じゃあ、また会ったらどうする。さっきみたいに」
「また会ったら……」

どうするんだろう、わたしは。さっきは赤葦さんのおかげで助かったが二度目も助かるとは限らない。その時波、自分で何とかするしかない。だけど。

「……笑わないで聞いてくれますか」

返事は無かったが、こちらを見る気配がした。
心の中にあるもやもや。見ず知らずの人だけど、それでも話してしまいたいと思った。膝を見つめながら切り出す。

「もしあれが自分だったらって考えちゃうんです。あれを傷つけたら、もしかしたらわたしだって傷つくかもしれない。それに、あれが言っていたことがもし本当だったら、このわたしは本当のわたしじゃなくて、実はあっちが本物で……。そんなこと考えてるんですよ。考えたって何かが変わるわけじゃないのに、可笑しいですよね」
「可笑しくなんかない」

ずらずらと並べたもやもやがふっと霞んだ。

「要するに怖いんだろ、自分と向き合ったことが。鏡でしか見たときない自分が目の前にいて、それにお前は死んでるって言われて、怖くない奴なんていない」

赤葦さんはこちらを見ず、前を見つめて呟くように言う。眼下にはバカ騒ぎしている日向くんや木兎さんがいた。

「俺だって怖かった。どうすればいいんだって思った。一瞬疑ったんだ、本当に死んでるんじゃないかって。でも、木兎さんたちとバレーしてる俺が頭をよぎって、気がついたら叫んでた。止めろって」

そこで区切り、わたしの方を向いた。
穏やかに笑っていて、こんな顔も出来るんだと思った。

「いつも悩まされてる先輩たちに助けられる方が可笑しいだろ」
「……おかしく、ないですよ」

何も可笑しなことなんてない。もうここにいる時点でおかしいんだから、これより可笑しなことなんてない。変なことを考えることも、先輩に助けられることも。
わたしもつられて笑い返すと少し驚いた顔をして赤葦さんは前を向いた。そのタイミングで木兎さんが赤葦さんを呼ぶ。
じゃあ、と腰を上げた彼にありがとうございましたと言った。

「別に、俺は何もしてないけど」
「それでも、ありがとうございました」

わたしの言葉にくすりと笑うと、赤葦さんは手を伸ばして。わたしの頭にそれを乗せて数回行き来させると木兎さんの方へ向かった。

頬が熱くなったのは言うまでもない。





 



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -