必然 | ナノ


26.徒然

目を瞑って、ゆっくり深く息をする。
背中を擦ってくれる手が温かい。
涙は止まっていた。

「ありがとう。月島くん」
「別に、あんたが暗いと調子狂うから」
「ふふっ」

少し嬉しくなって涙を拭った。
目が乾いて痛い。でも何故だかそれが愛しく感じた。

「いーなー。及川さんもぎゅーってしたいー」
「はぁ…」
「みょうじさんが元気になったことだし、これからどうするか考えようか」

後ろからは化物が、前には消えていく世界が。
この状況をどうやって回避すればいいのか。





どうやらこの世界は深く考えさせてくれないらしい。





…ナイ…イナイ…。
オ、カアサン…。


茂庭さんの息を呑む音が聞こえた。


ボクラノ…オカアサン…。


しゃべってるよ…、と及川さんが真顔で言った。


タイセツ、タイセツ、ミツケル、ハヤク。


足音がこちらに近付いてくる。


キエル、マエニ…ナクナルマエニ…。


影が見えた。歪な影が。


オカアサン、オカアサン…。


赤い目をぎらつかせながら真っ直ぐこちらに向かってくる。


ボクラノダイジナ…。


両手を伸ばしてのたりのたりとやってくる。


オカアサン。


…止まった。
化物は手を伸ばしている。しかし歩は止まった。
どうしたのだろうと周りを見ると、

「…う、そ」


そこにあった暗闇は綺麗に消えて、新築の廊下になっていた。
明るい日の光が窓から廊下に反射してキラキラと輝いている。
先程とは違う光景。
但し、一番違うものが一つ。


「どうして…」






みんな、いないの。

 

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