必然 | ナノ


22.潸然

「…もうやだ」
「諦めないでください」
「だって、これで何階!?なんでこんなに何も無いの!?皆は!?どこ!?なにこれいじめ!?新しいいじめなの!?……及川さん、疲れたよ」
「はい…」

そう、何も無いのだ。笑ってしまうくらい。
教室に入っても入っても誰もおらず、階を降りても何も無い。確かこれで三階は降りた気がする。しかし何も無い。
頭がおかしくなりそうだ。

「もーやだ。動きたくない」
「そんなこと言わないでくださいよ。行きましょう?」
「無理」
「でもここまできて何も無いのはおかしいな」
「そうですね。何か出てきてもおかしくないのに」

菅原さんが呟いて月島くんも賛同した。
もしかして、無限ループに嵌まってしまったのだろうか。
そうだとしたら原因は、暗闇か、本か。

「ああああ、どうしよう。二口失礼なことしてないよな…。あああああ」

茂庭さんが頭を抱えて少しパニックになっています。

「…あの、大丈夫ですか?」
「あ!大丈夫大丈夫。…だといいな」
「えっと、二口さん?は、多分大丈夫だと思いますよ」
「そう、かな」
「一応協力するとは言っていましたし」
「そっか…なら少し安心かな」

茂庭さんは表情を崩すとわたしの頭を撫でた。と、勢いよく離し頭を下げた。

「うわああ!ごめんね!本当に!」
「あ、いえ。慣れたので」
「慣れたの?」
「慣れちゃいました」

ここに来て結構頭を撫でられている気がする。慣れてはいけないのか。

「あ!なんかはっけーん!」

そう言って及川さんは掃除用具入れの中から小さな鍵を取り出した。

「鍵…ですか?」
「だろうね」
「…」

凄く嫌な予感がする。今まで何かを見つけると何かが起こる事が多いからだ。
わたしの勘違いならいいのだが。



「ちょっとちょっと!何この展開!及川さんや」
「煩いので黙ってください」

勘違いでは無かったようだ。
わたしたちが鍵を見つけて教室から出ると突然物凄い音が響いて、今までわたしたちがいた教室に化物がいた。
背の異様に高いやはりバットを持ったゾンビのような化物はこちらを見るなりニヤリと笑い、突進してきた。
そして今に至る。

「くそっ。あいつ速くないですか」
「そうだね。どっかで撒かないと」
「みょうじさんは大丈夫?」
「だい、じょうぶです」
「全然そう見えないんだけど」
「月島の言う通りだぞ。無理しないで辛かったら言えよ?」
「…はい」

何だかんだいってここの人達は優しいのだな、と改めて痛感した。

やはりわたしは気を抜くと駄目らしい。
ありがとうございます、と言おうとすると勢いよく転んだ。足首からいやな音がした。

「みょうじさん!」
「大丈夫です!先行っててくだ」

その先は温かい何かに遮られた。

「だから強がるのはやめなよ、みっともない」
「つきしまく、」
「いいから掴まっててね。落ちても知らないから」

割と本気で走ったので慌てて彼の首に掴まる。これでお姫様抱っこは三回目だ。
やっぱり烏野の方々は女の子馴れしていますね。
でもそんな彼に助けられたのは紛れもない事実で。

人肌はいいな、と思いながらもこの先の恐怖を想像して身震いした。

 

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