必然 | ナノ


20.悠然

やみくもに走り続けてどれくらいたっただろう。一向に出口は見えない。そして、未だ男の子は追いかけてきている。意味不明な言葉を叫びながら確実にわたしたちとの距離を縮めている。

「つ、きしまっくんっ」
「なに?」
「も、いいよ」

息が続かなくて、酸素が足りなくて肺が痛い。足も疲れて限界だ。
せめて彼だけでも逃げてほしい。

「あのこ、わたしがほしいって。だから」
「だから何?置いていけって?」

途端鋭い声がわたしの言葉を遮った。
どうやらお怒りの様子で。

「ここでみょうじさん置いてったって、何も良いことないでしょ。第一、みょうじさんはそれでいいの?…そんなこと考えてる暇があるなら、もっと足動かして」
「…はい」

何だかまた彼に救われた気がする。
わたしはさっきまでの暗い考えを吹っ切って足を動かす事にだけ集中した。

いつの間にか木兎さんと赤葦さんの姿、声も聞こえなくなっていて、男の子の叫び声とわたしたちの足音だけが暗闇に響いていた。
少し心細い。

気を抜いていたからか、日頃の行いが悪いのか。わたしは何もない筈の暗闇で盛大に転んだ。間一髪月島くんを巻き沿いにすることは無かったものの、これは非常にまずい。

『おおおおおねえちゃあん』
『どこおおおおおおお』
『あ』

男の子の声が止まった。わたしは慌てて起き上がったが、目の前を見ると。

『みーつけた』

先程の原型を留めていない、言うなればゾンビの様な男の子の姿がそこにあった。

死んだ。

わたしは離されていなかった、彼の手を握りしめた。彼もわたしの手を強く握った。

ああ、これでわたしの人生は終わるのか。随分呆気ない終わり方だな。

男の子がわたしたちに向かってくる。
手に鉄の棒を握り締めて。
その棒がわたしに向かって降りかざされたとき、
わたしが目を閉じたとき、
聞き覚えのある声が聞こえた。





「やっほーなまえちゃん!助けに来たよ!」

 

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