必然 | ナノ


18.暗然

「遅いんだけど、何してたの」
「ごめんなさい」
「ま、いいけど」
「じゃあ帰るぞ。全員いるよな?」
「います」
「気ぃ引き締めて行くぞ」

岩泉さんと国見さんを先頭に月島くんと山口、その後ろにわたしが続いた。
足音が長い廊下に響いて不気味だ。誰も何も話そうとしないので余計に。
こんなときこそ何かが襲ってくるのではないかと思った。それが現実にならなければいいのだけれど。

無事に階段に辿り着き、下っていった。
やはり何も起こる事はなく、急ぎ足で階段を降り教室へ向かう。少し不安を抱きながら。

廊下の三分の一、もう少しで教室につく頃。
何だか胸騒ぎがした。
後ろから見られているような、気配。

急に怖くなって振り返った。

特に何もいなくて安心したのも束の間、誰かの叫び声が廊下に響き渡った。

「ひっ」
「大丈夫か?」
「だい、じょうぶです…」
「…大丈夫じゃないデショ、顔真っ青だから」

何か言おうとしたときだった。

「ぎゃああああああああ!!」
「煩いです、静かにしててください」
「あかああしいいいいいいいいい!!」

叫び声と共に二人組が階段から降りてきた。落ちてきた、といってもいいかもしれない。
一人は叫び続けている特徴的な髪型の人で、もう一人はそれに冷静に返す知的そうな人だった。
その後ろから、血だらけの髪の長い女が這って追いかけていた。凄まじい速さだった。
生憎、血を見るのに慣れていないもので倒れそうになった。

「危ないデショ」
「ごめん…」
「逃げるぞ!!」

岩泉さんの声で慌てて体勢を立て直そうとすると、寄りかからせて頂いていた月島くんに止められた。

「そんなフラフラならすぐ転ぶんじゃない?」
「だいじょうぶだよ」
「…」

何か言いたそうな彼に笑顔を見せて岩泉さんの後に続こうとした。

その時だった。

「え」

廊下が突然ぐにゃりと歪み、また月島くんに倒れ込んだ。
ごめん、と言おうとするとそのまま抱きしめられて驚いたのも束の間、地面の感覚が無くなって、ふわりと浮いた。
怖くて月島くんのジャージを掴んだ。

それは、ブランコの、一瞬ふわっとなる感覚と同じだった。ジェットコースターの落ちる瞬間にも似ていた。どちらも共通点は結局落ちるということで。
わたしたちは暗闇に沈んでいった。

 

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