▼ 17.戛然
「…」
「…」
「…なんも、ねえな」
何も無いことは良いことだと思う。思うのだが、しかしこうも何も無いとかえって不安になってしまう。
わたしたちは、あの教室から出るとすぐに上の階に向かった。特に何も起こることは無くスムーズに行くことが出来た。
どうやらここは四階のようで、しかしまだ上の階があるようだ。ここの学校は何階建てなのだろう。一つ一つ見て回るのははっきり言って面倒臭いので、出来るだけ少なくしてほしかった。
「…よし、次行くぞ」
「はい」
ここで三クラス目だ。やはり机と椅子は綺麗に一列に並んでいて、怖いくらいに塵一つ無かった。
「…何も無いねツッキー」
「…無駄口叩くならちゃっちゃと終わらせたら」
「…ごめんツッキー」
「岩泉先輩」
「何だ?」
「何かこんなことしてても意味無いような気がするんですけど」
「…兎に角終わらせるぞ」
「はい」
皆さんの会話が始めたときより、何だか暗いような気がするのは気のせいだろうか。
わたしは黙々と手を動かしながら今は何時なのだろうとぼんやり思った。
そういえば時計が無いな。
「…はあ。次行くぞ」
岩泉さんの声で我に返る。慌てて最後の机の中に手を入れると固いものが手に触れた。恐る恐る掴んで取り出すと本だった。もう二十年くらい前の、黄ばんでいて所々文字が掠れている古びた本。異様な雰囲気を纏っていて、落としそうになった。
「…何その気味悪い本」
「えっと、なんか、ありました」
「見ればわかるから」
「収穫あったし、帰るか」
「そうですね。ここ何組ですかね」
何となく本をペラペラと捲ってみた。びっしりと字で埋め尽くされていて頭が痛くなりそうだ。最後のページまでいったので本を閉じると皆さんはもう教室から出ていた。慌てて追い掛けようとすると背後に視線を感じた。
何気なく振り向いたが何もいなかった。
可笑しいな、と思いながらも皆さんの後に続いた。
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