必然 | ナノ


16.闖然

「…どうしますか」

沈黙を破ったのは国見さんだった。

「…まだ動かねえ方がいいだろ。もう少し待って探索組が戻って来ねえなら……俺たちが行くしかねえな」

岩泉さんの言葉に気分が沈んだ。
行きたくない。行きたくないが、行くしかないのだろう。みんなそう思っている筈だ。我慢しなくては。足手まといにならないように。
そう自分に言い聞かせて下を向いた。


「………っと速く走れボゲエ!」
「うるせー!!お前も速く走れ!!」
「烏野の一年うるさい!」
「旭さん!もっと速く!」
「そんなこと言われても…」
「あそこがゴールだからな!」

何やら騒がしい声が聞こえて嬉しくなった。

良かった、無事で。

前のドアがガラッと勢いよく開いて人が雪崩れ込んできた。

「はあ、はあ、はあ…」
「つか、れた…」
「旭さんこんなんで疲れてたら身が持たないですよ!」
「ノヤは凄いな…」
「烏野なんなんだよ…」
「…」
「さて、また人が増えた所だからな、自己紹介でもするか」

人の声が溢れていて何がなんだかわからない。
よく見ると、さっき−体育館にいた時−はいなかった大きい人が増えていた。強面の人と爽やかそうな人。
印象が全く違う二人だが、共通点は背が高いことだった。

「あ、烏野のエースさんじゃないですか」
「あ…」
「げ…」

爽やかさんが東峰さんに言うと、東峰さんと何故か日向くんも苦い顔をした。

「まあ、ここはコートの中じゃないんで、協力していきましょうか」

にっこりと爽やかなスマイル−裏があるように見える−を向けた後、部屋を見渡し、わたしと目が合った。

「…どちら様?」
「あ、烏野高校一年の、みょうじなまえ、です」
「ふーん。俺は二口。こっちは青根。まあ、よろしく」
「よろしくお願いします…」

見下ろされていて、何だか怖い。それに、二口さんはわたしが初めて体育館に入った時に感じたみんなの突き刺すような目をしていた。
わたしを信用していないのだろう。
なるべく目を合わせないようにと視線を下げた。

「…まあ、探索組も伊達工のやつらも疲れてるだろうし、とりあえず待機組が行く…っつーことでいいか?」
「ああ」
「俺たち行かなくていいってことっすか?」
「まあな」
「俺まだ行けます!」
「やめとけ。休める時に休まねーと。何かあってからじゃ遅いからな」

黒尾さんの言葉が重く心にのしかかる。
何かとは何か。
考えたくなくて手を握りしめた。

「お前らはどこ行ったんだ?」
「ここの階の教室全部だ。ここが一番端の教室で、全部の教室を見て回ってから上の階に行こうとしたときこいつらが来たんだ」
「化物付きっす」
「何かとり憑いてるみたいだからやめろよ」
「ビビっちゃ駄目ですよ旭さん!」
「いや、そういう訳じゃないけどさ…」
「まあ上か下の階に行けばいいんだな?」
「そういうことだ」
「りょーかい。じゃ、行くぞ」
「はい」
「…はい」

わたしたちは立ち上がってドアの前に並んだ。凄く緊張する。みんなの前で発表するより、告白するより、ずっと。
深呼吸を繰り返し気持ちを落ち着かせる。

大丈夫、大丈夫。


「…いいか?行くぞ!」

岩泉さんの合図でドアが開く。
この先の世界に不安を抱きながらわたしは一歩踏み出した。

 

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