必然 | ナノ


11.呆然

夢を見た。
わたしが小さい頃の夢だった。
夕方、公園で姉と遊んでいるとカラスが鳴いて5時を知らせる鐘が鳴った。入口の方から母の声が聞こえたのでどっちが速く母の元に着くか競走した。わたしは途中で転んでしまって姉が先に着いた。
すると母が何か違う物に変わっていった。
黒いナニカに。
姉は懸命に逃げようとしていたが為す術なく黒いナニカに飲み込まれた。
わたしはしばらく呆然としていたが、我に返ると家まで走った。
ひぐらしが鳴いていたので夏のことだと思う。
そこで夢は終わった。


目を覚ますと天井と電気が見えた。眩しくて腕で目を覆おうとすると身体にジャージが掛かっていた。烏野のジャージだった。
誰がかけてくれたのだろうと身体を起こすと。

「ひっ」

そこには誰もいなかった。


恐らくどこかの教室らしい。ではこのジャージは誰のもので、いつ掛けてくれたのか。考え出すと怖くなって、体育座りで膝に額を付けた。
嫌だ、一人は嫌だ。
誰か、助けて。

「おいもっと速く走れボゲェ!!」
「これが限界なんだよ!!」
「無駄口叩いてる余裕あるなら速くしなよ」
「「お前が言うなよ!!」」
「おい烏野の一年!次どっちだ!?」
「えっと!そこですっ!」
「そこってどこ!?!?」

何やら騒がしい声が聞こえて安心したのも束の間、どうやら化物に追いかけられているらしい。
わたしは勇気を振り絞って立ち上がってドアを開けた。

「!!みょうじさん!?」
「はやく!!!」

日向くんと目が合ったので大声で叫ぶと後ろから凄い音がした。
振り返ると、男の子がいた。凄い音の正体は彼が手に持っているノコギリだろう。
ニコニコと笑いながら刃物を振り回す姿は化物の仲間だと確信した。

ああ、わたしの人生はこんなものだったのだろうか。もっと青春したかった。

男の子のノコギリが近付いてくる。
日向くんたちが、このノコギリに当たらないように男の子に一歩、もう一歩と近付いた。
後ろでわたしの名前を呼ぶ声がする。気付かない振りをして近付いて行った。

本当は死にたくなんて、ない。でも彼らが生きてここから出られるなら。“仲間がいる”彼らが傷付かないなら。わたしは。

すぐそこまで来た男の子。わたしは目を瞑ってその時をひたすら待ち続ける。
神様、来世はまた人間に生まれ変わりたいです。それでたくさん恋して、勉強して、友達いっぱい作って、結婚するんだ。
平凡な人生がいいな。

目を開けると男の子はまさに今、わたしに向かってノコギリを振り上げていた。
死ぬ。
そう思った。

「みょうじさん!!」

誰かに腕を引かれた。
そのまま走り出す。

「っ!月島くん!?」
「みょうじさんって、ホントバカ」

わたしをバカ呼ばわりするとは、なんと言う嫌な人だろう。

「速くツッキー!!」

山口くんの声がする。彼もいるのだと思うとホっとした。

と同時に教室の中に投げ入れられた。

「いっ!!」

全く、烏野の一年生は女の子の扱いが荒いと思う。

でも助かって、よかった。

何だか色々と混乱しているので、取り合えず目を瞑った。

 

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