必然 | ナノ


9.未然

「えっと、わたしが目を覚ましたのは…教室です。プレートは見てなくて何組かはわからないです」
「じゃあ特徴とかはわかる?」
「えっと…窓が無かったです」
「窓が無い?」

わたしの言葉に皆さんが首をかしげた。もしかして他の教室には窓があるのだろうか。

「俺の記憶が正しければ、窓が無い教室なんて無かった筈だ…そうだよな研磨」
「うん」

寝癖さんの問いに隣に座っていたプリンさんー研磨さんが答えた。

「じゃあ、どこの部屋だったかわかる?」
「えっと…影山くんたちと会った階でした」
「3階です」
「何でてめーが答えんだよ」
「だって王様わかんないでしょ?」
「おい!」
「はい、喧嘩はあとでねー」

菅原さん本当にお母さんに見える。

「あとは?」
「えっと…。あ!廊下がずっと続いてました」
「ずっと続いてた?」

今度は月島くんが首をかしげた。
疑っているようで怖いです。

「王様、みょうじさんと会った階って廊下続いてた?」
「いや…ふつーの廊下だったぞ」

普通の廊下…。
じゃあわたしが見たあの廊下は何だったのだろう。暗くて長い、あの廊下。

「つーかみょうじさんと会ったのって4組だろ?」
「すぐそこに階段があったよな?」
「え…」

よくわからない。
でも、確かにそうだ。あの時、影山くんと会ったときはすぐそこに階段があって飛び降りたのだっけ。

「ま、深く考えなくていいんじゃない?ここはよくわかんない異世界みたいなもんだし」

及川さんのおかげで気が楽になった。

「あとは何かある?」
「ええと…アネモネの花が教壇に飾ってありました」
「アネモネねぇ」
「あ!旭さん!これって花言葉とかじゃないんですか!?」
「おお!すげぇなノヤっさん!」
「まあな!」
「アネモネの花言葉は?」
「「…」」
「確か、儚い恋、薄れ行く希望だったかな」
「スガさん物知りー」
「博識ー」

わたしって、人と考え方が違うのだろうか。嫉妬の為の無実の犠牲なんて誰も考えないか。

「…でも、嫉妬の為の無実の犠牲っていうのも、あるよ」
「こえーな研磨」
「嫉妬か…」

澤村さんの呟きで皆一言も話さない。

「ま、とりあえず考えんのは後でだな。じゃあ次は俺たちがいくぞ」

そう言って立ち上がったのは寝癖さん。
彼が話し始める前、ふと気付いた事。

わたしは何のためにいるのだろう。

バレー部ではないし、男子でもないわたしがここにいる意味があるのだろうか。

寝癖さんと目があった。頭の中で彼の声が響いた。
…考えるのは後でいいか。
次の寝癖さんの言葉に耳を傾けた。

 

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